単価下落を考える2

自分の首を絞める低価格会社

 データ入力の分野では、途方もない低価格で請け負う会社が出てきている(個人事業ではなく会社法人が多い)。
 もちろん、低価格路線は受注量を増やすための名案ではある。ただ、入力は労働集約型産業だから、低価格を実現するには作業者への支払いを節約するしかない。

 ※労働集約型産業とは、機械化・自動化しにくく人海戦術で処理するしかない産業のこと。「IT導入による省力化」で労働集約型を抜け出す産業も多いのに、入力というパソコン仕事が人海戦術なのは皮肉だ…。

 超低価格で受注する会社は、ベテランが入力しても時給換算100円台にしかならないような単価で作業者に出す。不慣れな人なら、時給換算で数十円
 こんな単価でも、在宅ワークにあこがれる人がいる限りかろうじて入力者の確保はできるかもしれない。でも誰も長続きせず、会社はいつも新人入力者を相手にするはめになるだろう。

 新人ばかりだと、管理する側の負担は重い。例えば、ベテラン揃いなら5人で済む仕事が、入力に不慣れで遅い人ばかりでは15人投入しなければならない。15人と連絡を取り、15枚の請求書を受け取り、15件の報酬振込みをする。手間が、5人のときの3倍になる。
 データの精度が揃わないから、しかるべきチェックシステムを組む必要がある。有能なチェック要員も必要になる。超低価格で受注していては、システム投資やチェック要員の人件費などの確保は、楽ではないはずだ。

 入力を省力化・機械化・自動化するためのシステムやソフトウェアは、いろいろ開発されつつある。だけどまだまだ人手に頼る部分が多い。
 もうちょっと受注単価を上げて、入力者にもうちょっと払って長続きさせるほうが、結果的に業績は上がるのではないかと思う。

 それにしても、ベテランでも時給100円台などという仕事は法律に触れないのだろうか。何らかの形で規制はできないのだろうか。
(続く…)

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ブームは去った

 最初から入力のことをよく知っていて、ぜひ入力者になりたいという信念でこの仕事を始める人は、案外少ない。
 最初は、むしろ「在宅」という言葉にひかれるのだ。家でできる仕事。

 人間関係が苦手だからという場合もあるし、体が弱いとか夫の転勤が多いという理由もある。幼い子供や介護が必要な老人が家にいるからという理由もある。
 「在宅で仕事をしたい」のが「お金が欲しいから」であれば、別に入力でなくてもかまわない
 アフィリエイトでもプチ株式投資でもいいわけだ。ネット上のアンケートに答えてポイントを稼ぐなども根強い人気がある。
 だから入力者・入力希望者の数は、そのときの流行で人数が大きく増減する。

 過去何度かブームはあった。
 1994年以降の在宅ワークブーム
 1998年以降のSOHOブーム
 2000~2001年頃はテープ起こしの通信教育全盛期で、毎日のように新聞・雑誌に「テープ起こしの技術を身につければこんなに稼げる」というような甘い広告が載っていた。いわばテープ起こしブームだ。

 ブームというのはたいてい1年ほどで下火になるのだが、ここまでは下火になると次のブームが起きていた。最初のブームで入ってきた人が、コンスタントな仕事量を確保できず撤退したり、子供が大きくなって外へ働きに出たりしても、次のブームで新しい人が入ってきていた。

 テープ起こし通信教育の1つが「内職商法」として家宅捜索を受けたのが2002年(もちろんもっと前から疑われてはいた)、その会社の幹部が起訴されたのが2003年、主犯に実刑判決が下ったのが2004年。「試験に合格すれば仕事をあっせんする」と教材を売ったのに、ほとんど誰も合格させなかったのだ。
 これ以来、ブームは起きていない。大ヒットした入力系の通信教育もない。音を立てて波は引いた。

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だけど経費もかからなくなった

 入力者が減っているという話の前に、単価下落について確認しておきたいことがある。
 今年に入るまでは、世の中全体がデフレだった。つまり、ほかのモノやサービスの値段も全体的に下がったわけだ。
 また、デフレとは別だと思うが、パソコンやインターネット関連の価格はこの十数年で劇的に安くなった。入力系の仕事をする上での経費がぐっと減ったのだ。

 例えば1996年に買った私のパソコンは、当時としても貧弱な下位モデルだったのに23万円もした。今年買ったパソコンは、デスクトップ+モニタ+Win XPでわずか9万円。
 10万円超の機材は「資産」として減価償却する決まりだけど、9万円のパソコンは単なる「消耗品」扱いで、減価償却する必要がない。そのぐらい安くなったのだ。

 2000年に、インターネットであれこれ調べ物をしたら、3カ月連続で電話代が2万円もかかった。当時は回線速度がのろく、各企業のホームページも充実していなくて、時間がかかるわりに大した調べ物はできなかった。

 例の日経記事には「テープ起こしの単価が以前○円程度、現在○円程度」というのが載っていた(企業等から直接に受注する人の単価だと思う。下請け・孫請けする人がもらう金額は記事より安い)が、わりとマイルドな数字だった。

 「もっと昔は音声1時間当たり4万円もらっていた」と、その当時やっていた人から聞いたことがある。彼女がやっていたのはワープロ登場以前。原稿用紙に1字ずつ書いていったので現在よりずっと作業時間はかかった、ネットのない時代だから調べ物も大変だったとのこと。

 今は機材費や情報収集費は劇的に減ったし、インターネットの回線速度が上がったことやパソコンがフリーズしにくくなったことなどで作業効率はアップした。
 それらを考慮した上でどの程度収益性が低くなったのか、正確に検証したデータは見たことがない

 私の実感としては、テープ起こしの単価下落は大体のところ許容範囲。ただ、狂ったような低単価が一部に出てきている。相場を知らない人が無邪気につける価格というケースもあるが、大手がシェア拡大を狙って戦略的に打ち出しているものもあるので、伝染が心配だ。
 データ入力の単価下落は、大多数の仕事ですでに下限を超えていると感じる。引き受ける人がいなくなるのは時間の問題だ。

 私はデータ入力が好きで今でもやっているが、単価のいいところとしか取引しない。このところちょっと体調を崩していて、そのうち1社からしばらく撤退せざるをえなくなった…。担当者が優しいし、入力内容も勉強になるので残念なのだけど。
 いずれ、単価のいい仕事を受注する方法や必要なスキルをまとめてみたいと思っている。データ入力者がこの仕事を続けていくための方法を、真剣に考える必要がある。

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入力者はむしろ減っている

 このへんで一度問題を整理してみよう。

私が考える、単価下落の原因(のうち、メインの2つ)
(1)「本業で利幅を取るために、付随する入力業務を安く提示する企業がある」
(2)「エンドユーザーから受注した企業が入力に関わりたがらず、下請け孫請けに出されていく」

 6月1日の日経新聞夕刊で、単価下落の原因についてふれているところを抜き出してみると、記事本文では、
「最近は事業者数の増加で受注価格が下がったり」
「発注側の企業が中国などに業務委託し経費節減を図ったり」(→データ入力の場合)
「SOHO同士の価格競争で値崩れを起こしたり」

 囲み部分でのNPO法人SOHOシンクタンクの久保京子理事のコメント
「例えば、企業ホームページの制作業務はシステム開発会社が受注した案件を別の会社が受け、さらにSOHOに流すというケースが横行している。結果的に安く使われる」

※私はこのブログで入力系の仕事のみを取り上げているが、記事ではもっと広く、主婦がパソコンを使う仕事全般を取り上げている

 久保さんのコメントは下請け孫請け構造を指摘していて、私の(2)と同様だ。
 本文のほうは…。ホームページ制作等を考えずここでは入力系に限定するとして…、事業者が増えた、ということがあるだろうか? だって、なんらかの形で入力に関連する企業は、もともと多いのだ。
 「在宅で入力系の仕事をしている主婦個人」は、むしろ減っている。

 入力者が多すぎて、1つでも仕事を取るために安い案件に飛びつく人がいるから、全体の単価が下がるというのなら、今は徐々に単価が上がり始めているはずだ。
 なのに上がらないということは…、話をそっちへ持っていく前に、在宅入力者は減っていると私が考える根拠を説明したい。

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メンバーはリーダーを恨む

 在宅ワーカーのマネジメントは難しい。
 知識やスキルのばらつきが大きい。かといって社内に呼んで研修を受けさせるほどの余裕が、流れの下流企業にはない。なにしろ、もう納期も単価もギリギリなのだから。
 そんなとき「入力グループにしか仕事を出さない」という必殺技がある。面倒なマネジメントを全部、グループリーダーに引き受けさせるのだ。

 入力グループのリーダーは、メンバーを自ら募集し、受け取った仕事をメンバーに割り振り、仕様を伝え、質問に答え、検品する。仕上がりの悪いデータがあれば、(もう本人に戻して直させる時間がないので)リーダーが徹夜で修正する。全データを合体し、納品する。後日、一括で振り込まれる報酬を、メンバー各自の口座に分けて振り込む。

 リーダーは自分の入力分以外にこれらのやっかいな仕事をするのだが、「マネジメント料」を別で払う良心的な会社は少ない。リーダーがマネジメントの労力分を確保しようと思えば、「1件単価の○%」を引いて、残りをメンバーに渡すという方法を取るしかない。

 それは普通だ、とビジネスの常識のある人なら言うだろう。流れの上流の会社だって、マージンを引いて下請けに出しているのだ。
 けれども、メンバーはリーダーを恨むただでさえ安い単価をさらに引かれるなんて許せないと思ってしまう。 好きでリーダーをやっているんでしょ、私たちに「迷惑」をかけないでよ。単価が安いから仕方ない? あんたが安い仕事しか取ってこないからでしょ。その程度の営業力でリーダーなんて偉そうにしないでよ。
 メンバーが思っていることを率直に表現すれば、こんなところだ。

 落ち着いて考えてみよう。在宅ワーカーの管理はなぜ難しいか。
 出社してないからだ。それにつきる。

 メンバーだって、出勤していれば仕事の受注状況はごく自然につかめる。自社の上に何段階もの階層があって、彼らが単価と納期を削りきって出してくるから、どうにもならないのだということがわかる。上司やリーダーが忙しくしているのを見れば、マネジメントが大変な仕事だということもわかるだろう。
 在宅では何も見えない。見えるのは、短すぎる納期とみじめな単価だけだ。そしてうるさいグループリーダー。
 失望したメンバーはやめていく。メンバーがしょっちゅう入れ替わって仕上がりが悪い。リーダーはマネジメントしきれなくなってグループを解散する。

 管理職の経験もなしに、社員より管理の難しい在宅ワーカーをマネジメントするなんて無謀だ。と外野から言うことはできるだろう。
 仕事の全体像を知ろうともせずリーダーばかり悪者扱いするなんて、仕事をする資格がない。とメンバーを非難することもできるだろう。

 だけど、もっと単価が高く納期が長ければ問題ないのに。
 いやそれより、もっと流れの上流で、企業が直接マネジメントして入力者を管理すればいいのに。

 いっそのこと誰も入力を引き受けなければ、上流の会社は入力者の待遇を考え直すのだろうか。

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