音声に戻せることは重要か

 テープ起こしの表記は、文字を音声に復元できることを重視して決まっている場合がある。
 例えばよくあるのは、「そのほか」と発音されたら「そのほか」と入力し、「そのた」と発音されたら「その他」と入力するという表記。両方を「その他」と表記しては、元の発音がわからないというわけだ。

 でも、音声に戻せることは大事だろうか。
 起こした文章を普通の人が見たとき、「そのほか」と「その他」が混じっている理由が理解できるだろうか。素晴らしい工夫だと思ってくれるだろうか。

 自分がしゃべるとき、「そのほか」と「そのた」は、意味的な必要があって言い分けているわけではない。前後関係による言いやすさなどで、なんとなく口から出ているだけだと思う。
 だから、「そのほか」を「その他」と表記しても問題ないはず、文章としては「その他」に統一するほうが見た目が美しい、と最近よく思う。

 でも、私が変えれば済むというわけではない。私が仕事を頼んでいる人たちも、当然のこととして使い分けている。納品してもらったファイルをこちらで置換するのと、「ほか」は「他」にしてねと伝えておくるのと、どっちがいいだろう。
 「ほか」以外にも、同じ言葉で同じ意味なのに発音次第で表記を変える慣習になっている言葉はいくつかある。「ほか」をいじるなら、それらもどうするか考えないといけない。

 と考えていくと、おっくうになる。結局「そのほか」→「そのほか」、「そのた」→「その他」を使い続けるほうが楽ということになる。うーん。

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殴られる村人

 「ICレコーダーの横で咳をするぞ」と脅されたら、何でも言うことを聞いてしまうだろう。「お代官様っ、それだけはご容赦をー!」

 きのう起こしていた音声が、まさにそれだった。録音機材の近くに、やたら咳をする人がいる。近くの咳というのは、普段の生活ではさほど特別には感じないけど、音声で聞くとすごい爆発音なのだ。
 ヘッドホンをしているから、自分の頭の中で爆発音が響く。「ゲホッ、ゲホッ」というより「ガッ! ガッ!」。
 咳とかぶる部分が聞き取れないのはまあ仕方ない。でも、その前後の音声は起こさなければならないから、何度も同じところを聞く。「ガッ! ガッ!」が来るのはわかっているけど、避けるわけにはいかない。
 なんとか聞き取って先へ進むと、次の「ガッ! ガッ!」がすぐ出てくる。

 お代官様の手下に殴られている、無力な村人になった気分。

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「修行」のテープ起こし

 今夜、テープ起こしの仕事が2本入る予定。1本はもう予約してあるけど、もう1本は誰に頼もうか。自分で起こすつもりだったけど、今週は妙に忙しくて。
 録音も悪くて内容も難しい、肩こりがひどくなる仕事だ。不明だらけで全然かまわないからとこちらが言っても、誰の納品メールにもお詫びの言葉が書かれてくる。

 テープ起こしをする者にとって言葉が聞き取れないほど、悔しく情けないことはない。
 あらかじめ状況を説明して、これは不明だらけが普通だからと頼んでいるんだけど、実際に不明だらけになると、本人は傷つく。それがわかるから、こちらも頼みにくい。

 実は私自身も、クライアントに毎度お詫びの言葉を書いて納品していたのだ。
 でも、それだとクライアントも頼みにくくなる。録音は悪い、内容はやたら難しい、だから不明だらけでOKと、クライアントも私に予告したのだから。

 この仕事って一種の修行(←技術を身につける「修業」でなく、悟りを目指して励むような「修行」)だなと、最近は思う。
 自分がどう起こして満足したいかじゃなくて、クライアントが望むものを提供するという切り替え。

 音が悪いのは、審議会の傍聴席から録音しているから。もちろん隠し録りではなく、録音許可を取っているという。だいぶ後になれば正式な会議録が発表されるんだけど、地方の本社に中央の審議会の様子を早く報告するのが、東京事務所の使命だ。
 きっと、傍聴に行く各社は、どこもこうやって努力してるのだろうと思う。正式な会議録はライン録音された音声から作られるのだろうけど、発表を待てない各社が、同じ音声(のもっと悪い版)を、あちこちで苦労してテープ起こししている。

 だから、起こす者としては、不明だらけでもクライアントに貢献しているという自信を持って、にっこり作業して…。そこまで悟りきれないんだけどねー、ホント。今夜入る仕事、どうしよう。

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