2008年12月hiroさん3

洋裁の会社も見学したけど…

 テープ起こしかデータ入力かという以前に、全然別の選択はないのか。
 hiroさんは、今のところパートなどで外に出るつもりはないという。パートの仕事で多いのは流通系だから、土日や夜の勤務が必要になるかもしれない。ご主人は、九州の中で単身赴任しているので、2週間に1回程度は帰宅する。その土日に自分がいないのはちょっと…と感じるそうだ。
 自宅がバスのルートからやや不便なところにあり、お嬢さんをクルマで送り迎えすることもあるので、それもあって外に出ようという気にはなりにくい。

 hiroさんは、短大の家政科を出ている。特に洋裁は得意で、お嬢さんたちが小さい頃は洋服をたくさん作っていた。お嬢さんたち(子供時代)のピアノ発表会の写真を見せてもらったら、お手製だというすっごーいドレス。
 この特技を生かす道はないのか。地方に住んでいても、個人でも、ネットショップで注文を受けてから売ればいい。現に私は、子供たちの発表会のワンピースを、洋裁好きな個人の方のネットショップで買ったことがある。
 「子供たちにばりばり作っていた頃はまだインターネット以前で、そういう形態がなかったんです」とhiroさん。昔、地元で洋裁の会社を見学に行ったことがあるという。作業場でやっても自宅で作業してもいいというシステムだった。でも「思ったより難しそう…」とためらっているうちに、入力が仕事に結びついてしまったのだそうだ。

 というわけで、今のところ、hiroさんは外へ出ることも在宅で別の仕事をすることも、特に考えてはいないという(私としてはホッとしたけど)。

 話題は変わるけど、hiroさんの出た家政科は、被服などいかにも家事っぽい内容と、実験室で試験管を振るような内容が混在していた。短大卒業後も、食品メーカーの分析室に勤務した経歴がある。
 そうか、hiroさんは理系的な面もあるんだな、と密かに喜ぶ私。最近、ちょっと理系的なテープ起こしがあるから。

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テープ起こしはアバウトさを含む

 hiroさんがテープ起こしに気が進まない理由は、最初なかなか理解できなかった。データ入力系であれば、集計作業のような全く異質の仕事でも快くやってくれるのに。

 この秋はテープ起こしもだいぶ重なった。それで結局、hiroさんにもテープ起こしをお願いすることになった。
 仕事でのメールのやりとりに、テープ起こし自体についての話題が、たまに雑談のように混じった。その中で私は、hiroさんの完璧主義というかミスなく仕上げたいという志向に、テープ起こしという仕事が合わないのだと気づいた。
「データは見直しほどほどで納得するのですが、テープは聞きなおす度に訂正するところがたくさんあって、底なし沼のような気がします…」と、メールにあった。

 人間のしゃべり言葉はずいぶんでたらめなもので、言葉どおり文字にしても意味が通じにくかったりする。しゃべったとおりでなくある程度整えるとしても、その整え方は明文的に定められるようなものではない。出す側としても大まかな方向しか示せない。

 つまり、テープ起こしでは一つの解答というものがない。何が完全なのか、何が100パーセントなのかさえ、分からない。
 そのことにストレスを感じすぎてしまうと、テープ起こしはつらい仕事になる。何回聞き直しても、何度手直ししても、元のしゃべりが本質的にアバウトさを含むのだ。それは本人のミスとは違う。

 データの集計というのは、データ入力以上に実はhiroさんの得意分野だったのかもしれない。データ入力は多少のあいまいさ(手書きのアンケートだと、字が汚くて読めないものなど)があるが、集計には絶対に1個の正解しかないのだから。

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データ入力系の危機は続く

 この連載の12月12日、hiroさんの仕事先だった印刷会社の仕事が減り、やがて来なくなった話題で、「そういう親切な会社だから業績が危なくなるのかもとhiroさんは苦笑した」と書いたが。
 そのとき私は「××社もそうかもしれませんね」と答えて、二人でさらに苦笑したのだ。

 ずっとアンケートの入力・集計を私に発注してくれた××社は、この春ある会社に吸収合併された。そのときhiroさんは、仕事先だった印刷会社の例を引き合いに出して今後仕事は減ると予言したのだが、減らなかった。
 旧××社の社員は合併後ますます忙しくなったようで、今年の秋は過去最多の件数が入ってきた。

 ところが、その直後から日本経済(というか世界経済)は不況に突入。アンケートの発注数を絞ることと、単価ダウンが通告された。単価ダウンの方は多少交渉したけど、発注の大幅減はどうにもならない。当然、私からhiroさんたちへの外注も停止状態になった。

 ずっと以前、文書作成という仕事が極端に減った。その次に、ベタ入力の仕事が同様になった。データ入力の仕事も減って、見つかるのは極端に単価の低いものばかりだ。個人情報保護法などで社外に仕事を発注しにくくなっているのも、在宅入力者の仕事を減らしている。
 hiroさんは、OCR校正の仕事を一度やったことがある。これは神経を使うし、結構時間もかかった。ネット検索で情報を収集する仕事もやってみたことがある。ADSLだからかWebサイトの読み込みに時間がかかりすぎて能率が悪く、やめたという。
 データ入力系の仕事は、全体にかなりの危機であることは間違いない。

 hiroさんが所属しているワークグループは、本来テープ起こし中心に活動している。hiroさんもテープ起こしをやらないわけではなく、リーダーにも出来を認められている。でも、テープ起こしをメインにすることにためらいがあるという。
 そこにhiroさんの面白いというか独自な面が出てくる。

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外注費の支払い増に喜ぶ

 2006年3月、初めてhiroさんにアンケート入力をお願いした。2006年の会計記録を調べたら、2度目が同年8月で、それ以降今年秋までほぼ毎月仕事をお願いしている。

 途中から、顧客の部署内で私に発注してくれる担当者が増えてきて、アンケートがいくつも重なって届くようになった。外注者を増やしたが、入力前の準備作業と入力後の集計作業はどちらも私の担当だから、時間が足りない。ついに2007年4月、仕事の進め方を大反省し、集計作業も外注することにした。

 遠方の人が多いので、直接手順を教えるのは難しい。集計作業マニュアルを作った。マニュアルの各段階にチェックリストをつけて、チェックもれを防げるようにした。
 これがうまくいって、私はだいぶ楽になった。アンケート1件あたりに支払う外注費がアップしたのも良かった。なぜ外注費の支払いが増えてうれしいかというと…。

 データ入力は、単価が安いために人材が育たない、だから精度が低くなり、出す側はさらに単価を下げてくるという悪循環に陥っている。
 だったらデータ入力の単価をアップすればいいようなものだが、一つの大きな仕事の流れの中では、データ入力というのはほんの一部分に過ぎない。それに大きな金額を支払うことは、どの企業にもできない(それにしても、最近の価格破壊は極端すぎるとは思うけど)。

 データ入力者の側が、入力だけでなくその前後の作業能力を身につけて、自ら報酬アップを実現するべきだというのが私の持論。アンケートを入力するなら、その集計もでき、グラフも作り、自由回答の属性付き抽出もできればいいのだ。
 私自身そのようにしてきたし、私から外注する人にもそうなってほしいと思っていた。だから、集計作業までやってくれればそれなりの報酬を払うことは、むしろ喜んでやっている。私も劇的に楽になったのだから。

 なーんて優雅なことを言っていられたのも、実はこのアンケート集計の報酬が結構良かったからだ。しかるべき外注費を払っても儲かったのだ。
 今年の秋になって、前途に暗雲が…。

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