2008年12月 hiroさん

hiroさん1

2種類のタイプを両立させている人

 仕事への取り組み方で、人は2種類に分けられるような気がする。「抜けもあるけど仕事が早く、どんな内容にも果敢にチャレンジする人」←→「丁寧な仕事をするために常に慎重で、ある意味冒険をしない人」。
 前者は、仕事が大量でも難しくても引き受けてくれる。その代わり意外なポカをすることもあるので、慎重に検品する必要がある。後者は、ミスが少なく安心できる。その代わり、急ぎとか大量の仕事はまず引き受けてくれない。

 でも、長くやっている人はタイプの違いが小さいことが多い。どちらの登山道から登っても目指す山頂は一つなので、お互いの距離が近づいてくるのだろう。

 私がずっと入力をお願いしている福岡のhiroさんは、慎重で丁寧な性格。仕事の精度が高い。落ちや抜けがない。後者の登山道から登ってきた人なのだろうと思う。だけど、仕事がスピーディーで、量をこなすことができ、新しい種類の仕事でもやってくれる。どういう仕事歴なのか? それを連載前半で取り上げる。
 ところが慎重さが裏目に出て、hiroさんはテープ起こしに苦手意識を持っていた。連載後半は、そんなhiroさんの最近の変化について…。

hiroさんの自己紹介

福岡県在住。
1962年生。短大卒業後、某工場の分析室に勤務。
1984年結婚。他県へ移り、医療事務の派遣業務に就く。
1986年出産のため退社(途中で福岡へ戻る)。
長女が1歳の時、母が急に病に倒れ、8カ月の闘病の末他界。
少し年の離れた次女の出産は近所の友人の助けで乗り切りましたが、
とても外に働きには行けないと思い、在宅ワークを始めました。
現在、数カ所のMLに所属し、ヘルプのお仕事をしています。

名前を忘れなかった

 hiroさんには2006年3月以来仕事をお願いしている。メーリングリストに私が出した、データ入力者募集に応募してくれたのが最初だった。
 その前年2005年秋、私が講師を務めていたオンライン講座データ入力コースを、hiroさんは受講していた。

 データ入力コースは3カ月で、毎週Webサイト上に「今週の課題」と「先週の解答と解説」が発表され、数回の添削を行い、質疑応答はメーリングリストでという形態で進行した。
 このとき、多くの受講者は課題を提出するだけとか、MLに「はじめまして」メッセージを書いてくれる程度にとどまる。
 こちらがうながしても、この機会に質問してみようとか相談してみようとか、課題提出時のメールに自分のことを知ってもらえるよう何か書こうとか、そういう積極性のある人は少ない。

 データ入力は、初級レベルではさほど難しい技能や高度な判断力は必要としない。オンライン講座の添削課題も、高度なものではなかった。
 それでもパソコン自体に不慣れな人は苦戦するし、表計算ソフトとしてエクセルを使える人でもデータ入力に使う場合には戸惑いがある。データ入力経験者でさえ、思わぬ抜けや落ちは常にあるものだ。

 その点hiroさんは、添削課題の出来はパーフェクトだった。MLでの質問から、添削しない「今週の課題」も全部やっていることが分かった。MLでの質疑応答も文章がクリアだし、課題提出のメールには個人的なことがさりげなく書いてあったりもした。

 だから、私は講座が終わっても名前を忘れなかった。翌春の募集にhiroさんが応募してくれたときは、安心して仕事をお願いした。

ハイチュウは飛行機に効く

 今回の記事には会話は出てこない。理由は、録音した取材音声を聞くのが怖いからだ。

 11月13日に佐賀で就業体験セミナーがあって、私はエフスタイルの宮田志保さんと一緒にテープ起こしコースの講師を務めた。宮田さんは日帰りだったけど、私は前日夜に福岡空港に着いた。このときのフライトで鼓膜をやられた。
 高度を下げ始めたあたりから耳がキーンとなって、次第にひどくなり、両手で耳を押さえていないと耐えられないほどの痛みになった。
 つばを飲み込むとかあくびをするぐらいでは全然回復しない。ほとんど音が聞こえない。

 着陸後、耳の中でバーンという爆発音がして(この瞬間が一番痛かった)、ある程度聞こえるようになった。それでもまだ音が遠い。hiroさんと夕食をご一緒しながらお話を伺ったのだけど、自分がどのぐらいの声量でしゃべっているのか分からない。hiroさんの声はもっと遠くに聞こえる。
 おかげで、ザイニュー始まって以来の不出来なインタビューになった。最終的には、ホテルに戻ってお風呂に入っていたとき、普通の音が聞こえるようになった。

 「ハイチュウですよ、機内では噛んでいることが大事」と、hiroさんが教えてくれた。つばを飲み込むような動作より、噛む動作の方が「キーン」には効くのだそうだ。
 翌日、福岡から佐賀に行く途中でhiroさんが買ってくれたのは、「九州限定販売 熊本県産デコポン果汁100%使用 ハイチュウ デコポン」。おかげで、帰りの飛行機は耳が痛くならずに済んだ。しかもおいしかった。

 それにしても、前泊だったからよかったものの、あんな状態ですぐセミナーだったらと思うとぞっとする。飛行機に乗るときはハイチュウ必携。

勉強に無駄がない

 録音した音声も起こさないのに、11月に伺った内容を今ごろになって書けるのは、一つにはhiroさんが持ってきてくださった年表があるからだ。私も、hiroさんにお話を伺ったあと宿泊先の部屋で、持参のノートパソコンに取材した内容を入力した。年表とそのファイルを見比べながら、これを書いている。

 年表を見ると、hiroさんの在宅ワーク歴は、勉強の項目と仕事の項目が交互に出てくる。仕事に必要だから勉強している、あるいは勉強したことを仕事に結びつけている。いずれにしろ無駄がない。
 高校卒業からの出来事がずっと書いてあるけど、在宅ワークとか入力の仕事に関連する項目は、二人目のお子さんの幼稚園時代から始まっている。

1996.12 日本商工会議所ワープロ技能検定3級合格
1997. 2 印刷会社よりデータ入力・書類作成受注

 hiroさんは教室に通って勉強し、ワープロ検定3級を取った。当時ワープロ検定はかなり流行し、私も3級を持っている。
 hiroさんはその教室で「在宅で入力の仕事がしたい」と相談してみた。冬は印刷会社が忙しい時期で仕事があるはずだから電話してみるようにと言われ、電話帳を見ながら地元の会社に片っ端から電話した。12月に合格して翌2月にはもう仕事を開始している。

 「冬は印刷会社が忙しい時期で、仕事があるはずだから」というワープロ教室の人のアドバイスも素晴らしい。
 私もテープ起こしの就業体験セミナー(秋から冬に開催)で毎回、「今からすぐ勉強して、この冬中に仕事に結びつけましょう。年度末まではどこも忙しいからチャンス」と力説するのだけど、すぐ必死で取りかかる人はそんなにいない。
 冬から年度末は個人もたいてい慌ただしいけれど、企業も忙しい。仕事をつかみやすい時期なのだ。

お互いが財産

 hiroさんが入力の仕事をスタートした印刷会社は、機材を自宅に貸してくれた。hiroさんが「組版機」という名称で記憶しているという機材。当時はそういうものがまだあったのだ。
※パナソニックのJ200という機種の当時のプレスリリースをhiroさんが見つけてくださった。hiroさん自身が使っていたのは、同じメーカーのもっと古い型だという。

 その印刷会社はレーザープリンタも貸し出してくれた。と聞くと、ぜいたくな仕事環境に思えるかもしれない。ところがその理由は、当時の業務用マシンにはプリンタの互換性がなかったためだ。例えば、富士通の編集専用機には富士通のレーザープリンタしか接続できないようになっていた。
 当時のレーザープリンタというのは、途方もなく重く大きく、自宅に置くには邪魔な代物だったけど。

 パソコンは急速に広まり、組版機やワープロ専用機は終わりの時代を迎えていた。
 hiroさんは、その印刷会社に重宝がられて長いこと仕事をした。しかし、経営者が変ったことにより発注量は徐々に減り、最終的には会社が遠方へ移転して、もう受注できなくなってしまった。それが2004年9月だから、なんと丸7年も1社専属でやったことになる。

 こんなに長続きする人は印刷会社にとって財産だ。でも、hiroさんにとってもその会社は財産だったようだ。単価は悪くなく、仕事が多いと結構な収入になった。
 hiroさんの前にやっていた入力者はもっと単価が高かったそうで、そういう親切な会社だから業績が危なくなるのかもとhiroさんは苦笑したが…。でもその会社は倒産したわけではなかったから、最後まできちんと報酬はもらえた(仕事先が傾いて倒産という事態に私は過去何度か遭遇したが、hiroさんは一度もないという。うらやましい)。

|

hiroさん2

ワークグループに加入

 勉強の項目と仕事の項目が交互に出てくるhiroさんの年表は、印刷会社との別れによって新しい記事が出てくる。

2004. 9 印刷所移転のため入力業務終了
2004   Word2002 上級、Excel2002 上級講座受講
2004.11 MOS Word2002 EXPERT 合格
2004.11 福岡テープ起こしネットに加入
    (2005.5 Work Group Contrailにグループ名を変更)

 つまり、hiroさんは印刷会社の仕事が減ってきたことによって、別の仕事先を見つける必要が出てきた。しかし編集専用機の時代は終わっている。そこでパソコン教室でパソコンを習うことにしたわけだ。2004年以前からパソコンは持っていたし使っていたが、どんなことでも一度きちんと習うというのは、hiroさんのポリシーであるらしい。

 MOSはMicrosoft Office Specialist。同じソフトでもバージョンが違えば中身も違うというマイクロソフトの考え方で、バージョンごとの資格になっている。
 hiroさんがWord2002上級とExcel2002上級の講座を受講しているうちに、やっぱりというか印刷所は最終的に遠方へ移転してしまった。

 11月、まずはWord2002 EXPERTを受けて、受かった。
 ところがちょうどワークグループを見つけて加入したので、仕事が忙しくなり、結局Excel2002 EXPERTの試験は受ける余裕がなかったという。季節を見れば冬直前、またも業界全体で忙しくなる時期に突入だから無理もない。
 それにhiroさんは、資格を「履歴書の飾り」的に考えてはいない。あくまで実務をこなすための技能習得が目的であり、仕事に結びつけばそれ以上は基本的に必要ない。

 このワークグループは地元のグループで、インターネットで探したのだという。たちまち空中分解するグループが多い中、今でもちゃんと活動を続けている。リーダーが受注する仕事がメインだが、メンバーそれぞれが受注した仕事を助け合って作業することもある。

違うジャンルの仕事が増えたら

 hiroさんが地元で見つけて加入したワークグループは、データ入力系(いわゆるテキスト入力と狭義のデータ入力とを含む)よりも、テープ起こしに比重を置いて受注していた。
 そこでhiroさんは例によって、ただちにテープ起こしを学ぶことにした。

2005.1~6 オンライン講座テープ起こしコースを受講

 谷頭千澄さんが講師をしていた講座だ。この講座は半年という十分な期間をかけて、単なるテープ起こしの技術だけではなく、メールの書き方や在宅ワーカーとしての心構えなど幅広く学べるようになっていた。「あなたの強みと弱みを書き出してみよう」というカウンセリング的内容まで入っているという、素晴らしい講座だった。
 グループの仕事が多くなり、結局hiroさんはこの講座の勉強に十分な時間が取れなかった。それでも、この講座でファイルの圧縮・解凍を初めて体験するなど、役立ったこともいろいろあったという。

 ところが皮肉なもので、せっかくグループのためにとテープ起こしを勉強し始めたのに、このときグループに増えていた仕事はデータ入力系だった。
 そこで…、はい皆さん、もうhiroさんの考え方は理解されていますね。そう、忙しい毎日にもかかわらず、hiroさんは今度はデータ入力を勉強することにしたのであります。
 6月にテープ起こしコースが終わって、7月から私のデータ入力コースを受講。hiroさんの学びに終わりはない…。

データ入力とテープ起こしのはざま

 本来テープ起こし中心のグループだったのに、2005年前後の一時期はデータ入力系の仕事が増えた。そして2008年現在はまた、テープ起こし中心に戻りつつある。
 hiroさんが所属しているグループの試行錯誤やリーダーの苦労、メンバーの揺れなどが、私には想像できる気がする。

 そもそも、在宅でできる仕事はたくさんある。その中で在宅ワークとは、パソコンやインターネットを駆使してする仕事を指すが、それだっていくらでも種類はある。
 でも、全然経験のない人が、ちょっと勉強したぐらいでデザイナーやプログラマーになるのは難しい。なんとか物になる可能性があるのは、やっぱりデータ入力系、テープ起こし、ある種のライターぐらいなのだ(どれも私の仕事なのがちょっと悲しいが)。

 この3種類の中ではデータ入力系の人気が高い。一番簡単そうに見えるからだ。就業体験セミナーでも、データ入力の参加者が最も多い。
 そのくせ人材不足なのもデータ入力だ。
 簡単そうというイメージが悪影響を及ぼす。発注側は、簡単な作業に思えるので安い単価をつける。受注側も、簡単に思えるのでつい安くても受注してしまう。ところが、納得して受注した本人も、数回やると嫌気がさしてくるので、レベルの高い人材が育ちにくい。

 hiroさんが所属しているワークグループは、長続きしていることからしてもしっかりしたリーダーさんなのだろう。hiroさんのような熟練の入力者もいるし、他のメンバーも同様なのだと思う。
 だから、テープ起こしの合間にたまたま受注したデータ入力も精度がよく、発注者は喜んで次々頼んできたのだろう。
 けれども、データ入力系の単価はやはり安い。受注しても手を挙げるメンバーが減る。引き受ける一部のメンバーに過度の負担がかかる。それでまた軌道修正して、テープ起こし中心に戻そうとしている…。

 hiroさんからちょっと伺った話からも、私の一般的な見聞からも、たぶんそういう流れなのだろうと思う。

納期は特に決めない

 私は最近まで、hiroさんにはデータ入力系(ベタ入力などを含む)のみをお願いしていた。データ入力系とテープ起こし系の人を区別する方が、違う種類の仕事が重なったとき自分にとって分かりやすかったからだ。このところ、データ入力系の仕事が減っているので、この原則は崩れつつあるけれども。

 hiroさんは仕事が速い。納期をわざわざ指定する必要もないほど、すぐ納品されてくる。
 入力自体も速いのだろうけど、それ以外の要素もあって速いのだろうと思う。仕事全体の進め方の緻密さ、丁寧さをいつも感じる。例えば、最初から正確に入力しておけば、校正後のデータ修正は短時間で済む。
 hiroさんのお子さんは高校生と大学生(この春就職)で、ご主人は単身赴任。お子さんが大きいことも、仕事に集中できるという意味で有利だ。

 以前メールで、hiroさんに速さの秘訣を尋ねたことがある。「速くない、ただ長時間パソコンの前にいるだけ」というような返事だった。昨年7月号の文月さんインタビューで、文月さんも同じようなことをおっしゃっていた。好きだから長時間やっても苦にならない。これは長続きする入力者に共通している。

狭い画面も効率は悪くない

 hiroさんにお願いしているアンケート入力の仕事は、原稿をPDFにして送っている。ノートパソコンの狭い画面では、見にくいのではないだろうか。PDFを出力して使っているのかと質問したら、画面内でやっているのだという。

 画面の左側にPDFを開き、出来るだけ大きく原稿を表示させる。私のデスクトップの19インチモニタでは、A4判の原稿は68.6%表示になる。ということは、hiroさんの14インチ画面だともっと小さく表示されるわけだ。
 そして、画面の右側にエクセルを開く。高さはエクセルシートの数行分。幅はPDFにかからない程度。横幅が狭い分ひんぱんにスクロールするので、入力するところがいつも真ん中にある。だからかえって入力しやすいというのがhiroさんの説明。
 紙の原稿だと、エクセルとの目の移動距離が大きくなって能率が悪いから、小さくても両方画面内に表示させる方が能率がいい。なるほどー。

 hiroさん、実はパソコンの扱いは好きではないらしい。
 昨年、ノートパソコンが不調になって新しく購入したら、古い方が「何か感じたらしく」快調に動くようになり、結局現在でも新しい方は使っていない。たしかに機械って、見捨てられる運命を感じると必死に働き出すときがあるような…。
 そういえば、昨年6月のザイニュー新宿オフに遠路来てくださったとき、「新しいノートパソコンを買ったけど、設定が面倒でまだ使ってない」とのことだった。それから1年、ようやく一応の設定はしたが、画面が明るくてなじめないのだそうだ(もちろん画面も暗めに設定したそうだけど)。

hiroさんのコメント
 今のパソコンは、XPが出たときに買った物で、また最近不調になりつつあります。Vistaは不評だけど(自分にとっても使いにくいけど)、そろそろ限界でしょうか? 悲しいけど壊れる前には移さなくては…。

 昨年7月号の文月さんといい、このhiroさんといい、道具にこだわらない達人に遭遇してしまうと複雑な心境。セミナーで「パソコンのメンテナンス能力は入力能力と同じぐらい大事」「画面は大きい方が楽」「料理人の包丁と同じと考えて、キーボードはいいものを選びましょう」なんて言っている自分が不安になったりもする。
 一般論として、自分でパソコンの設定やメンテナンスのできる能力が在宅ワーカーに必要なのは確かだし、hiroさんだって面倒とか言いながらちゃんと自力でやっているわけだけど。

|

hiroさん3

外注費の支払い増に喜ぶ

 2006年3月、初めてhiroさんにアンケート入力をお願いした。2006年の会計記録を調べたら、2度目が同年8月で、それ以降今年秋までほぼ毎月仕事をお願いしている。

 途中から、顧客の部署内で私に発注してくれる担当者が増えてきて、アンケートがいくつも重なって届くようになった。外注者を増やしたが、入力前の準備作業と入力後の集計作業はどちらも私の担当だから、時間が足りない。ついに2007年4月、仕事の進め方を大反省し、集計作業も外注することにした。

 遠方の人が多いので、直接手順を教えるのは難しい。集計作業マニュアルを作った。マニュアルの各段階にチェックリストをつけて、チェックもれを防げるようにした。
 これがうまくいって、私はだいぶ楽になった。アンケート1件あたりに支払う外注費がアップしたのも良かった。なぜ外注費の支払いが増えてうれしいかというと…。

 データ入力は、単価が安いために人材が育たない、だから精度が低くなり、出す側はさらに単価を下げてくるという悪循環に陥っている。
 だったらデータ入力の単価をアップすればいいようなものだが、一つの大きな仕事の流れの中では、データ入力というのはほんの一部分に過ぎない。それに大きな金額を支払うことは、どの企業にもできない(それにしても、最近の価格破壊は極端すぎるとは思うけど)。

 データ入力者の側が、入力だけでなくその前後の作業能力を身につけて、自ら報酬アップを実現するべきだというのが私の持論。アンケートを入力するなら、その集計もでき、グラフも作り、自由回答の属性付き抽出もできればいいのだ。
 私自身そのようにしてきたし、私から外注する人にもそうなってほしいと思っていた。だから、集計作業までやってくれればそれなりの報酬を払うことは、むしろ喜んでやっている。私も劇的に楽になったのだから。

 なーんて優雅なことを言っていられたのも、実はこのアンケート集計の報酬が結構良かったからだ。しかるべき外注費を払っても儲かったのだ。
 今年の秋になって、前途に暗雲が…。

データ入力系の危機は続く

 この連載の12月12日、hiroさんの仕事先だった印刷会社の仕事が減り、やがて来なくなった話題で、「そういう親切な会社だから業績が危なくなるのかもとhiroさんは苦笑した」と書いたが。
 そのとき私は「××社もそうかもしれませんね」と答えて、二人でさらに苦笑したのだ。

 ずっとアンケートの入力・集計を私に発注してくれた××社は、この春ある会社に吸収合併された。そのときhiroさんは、仕事先だった印刷会社の例を引き合いに出して今後仕事は減ると予言したのだが、減らなかった。
 旧××社の社員は合併後ますます忙しくなったようで、今年の秋は過去最多の件数が入ってきた。

 ところが、その直後から日本経済(というか世界経済)は不況に突入。アンケートの発注数を絞ることと、単価ダウンが通告された。単価ダウンの方は多少交渉したけど、発注の大幅減はどうにもならない。当然、私からhiroさんたちへの外注も停止状態になった。

 ずっと以前、文書作成という仕事が極端に減った。その次に、ベタ入力の仕事が同様になった。データ入力の仕事も減って、見つかるのは極端に単価の低いものばかりだ。個人情報保護法などで社外に仕事を発注しにくくなっているのも、在宅入力者の仕事を減らしている。
 hiroさんは、OCR校正の仕事を一度やったことがある。これは神経を使うし、結構時間もかかった。ネット検索で情報を収集する仕事もやってみたことがある。ADSLだからかWebサイトの読み込みに時間がかかりすぎて能率が悪く、やめたという。
 データ入力系の仕事は、全体にかなりの危機であることは間違いない。

 hiroさんが所属しているワークグループは、本来テープ起こし中心に活動している。hiroさんもテープ起こしをやらないわけではなく、リーダーにも出来を認められている。でも、テープ起こしをメインにすることにためらいがあるという。
 そこにhiroさんの面白いというか独自な面が出てくる。

テープ起こしはアバウトさを含む

 hiroさんがテープ起こしに気が進まない理由は、最初なかなか理解できなかった。データ入力系であれば、集計作業のような全く異質の仕事でも快くやってくれるのに。

 この秋はテープ起こしもだいぶ重なった。それで結局、hiroさんにもテープ起こしをお願いすることになった。
 仕事でのメールのやりとりに、テープ起こし自体についての話題が、たまに雑談のように混じった。その中で私は、hiroさんの完璧主義というかミスなく仕上げたいという志向に、テープ起こしという仕事が合わないのだと気づいた。
「データは見直しほどほどで納得するのですが、テープは聞きなおす度に訂正するところがたくさんあって、底なし沼のような気がします…」と、メールにあった。

 人間のしゃべり言葉はずいぶんでたらめなもので、言葉どおり文字にしても意味が通じにくかったりする。しゃべったとおりでなくある程度整えるとしても、その整え方は明文的に定められるようなものではない。出す側としても大まかな方向しか示せない。

 つまり、テープ起こしでは一つの解答というものがない。何が完全なのか、何が100パーセントなのかさえ、分からない。
 そのことにストレスを感じすぎてしまうと、テープ起こしはつらい仕事になる。何回聞き直しても、何度手直ししても、元のしゃべりが本質的にアバウトさを含むのだ。それは本人のミスとは違う。

 データの集計というのは、データ入力以上に実はhiroさんの得意分野だったのかもしれない。データ入力は多少のあいまいさ(手書きのアンケートだと、字が汚くて読めないものなど)があるが、集計には絶対に1個の正解しかないのだから。

洋裁の会社も見学したけど…

 テープ起こしかデータ入力かという以前に、全然別の選択はないのか。
 hiroさんは、今のところパートなどで外に出るつもりはないという。パートの仕事で多いのは流通系だから、土日や夜の勤務が必要になるかもしれない。ご主人は、九州の中で単身赴任しているので、2週間に1回程度は帰宅する。その土日に自分がいないのはちょっと…と感じるそうだ。
 自宅がバスのルートからやや不便なところにあり、お嬢さんをクルマで送り迎えすることもあるので、それもあって外に出ようという気にはなりにくい。

 hiroさんは、短大の家政科を出ている。特に洋裁は得意で、お嬢さんたちが小さい頃は洋服をたくさん作っていた。お嬢さんたち(子供時代)のピアノ発表会の写真を見せてもらったら、お手製だというすっごーいドレス。
 この特技を生かす道はないのか。地方に住んでいても、個人でも、ネットショップで注文を受けてから売ればいい。現に私は、子供たちの発表会のワンピースを、洋裁好きな個人の方のネットショップで買ったことがある。
 「子供たちにばりばり作っていた頃はまだインターネット以前で、そういう形態がなかったんです」とhiroさん。昔、地元で洋裁の会社を見学に行ったことがあるという。作業場でやっても自宅で作業してもいいというシステムだった。でも「思ったより難しそう…」とためらっているうちに、入力が仕事に結びついてしまったのだそうだ。

 というわけで、今のところ、hiroさんは外へ出ることも在宅で別の仕事をすることも、特に考えてはいないという(私としてはホッとしたけど)。

 話題は変わるけど、hiroさんの出た家政科は、被服などいかにも家事っぽい内容と、実験室で試験管を振るような内容が混在していた。短大卒業後も、食品メーカーの分析室に勤務した経歴がある。
 そうか、hiroさんは理系的な面もあるんだな、と密かに喜ぶ私。最近、ちょっと理系的なテープ起こしがあるから。

|

hiroさん4

テープ起こしの「良い仕上がり」とは

 hiroさんはテープ起こしが苦手だというが、周りの人はhiroさんの起こしを評価していた。最近hiroさんは、そのギャップを埋めつつある。

 hiroさんがテープ起こしについて語った内容は、取材メモによるとこんな感じだ。
「会議で大勢がしゃべっていると、聞き取るのが難しいと感じる」「話者の特定が難しい。会議の冒頭に自己紹介している部分と聞き比べているけど、興奮してしゃべっているときは声が高くなったりして、感じが違う」

 「いや、それ普通」と、テープ起こしをしている人は全員、パソコンの前で今突っ込んでいると思う。それはもともと、完璧に処理することは不可能な部分。できる範囲でやるしかない。

 不明が出たり、起こした言葉が間違ったりするのも、ある程度仕方ない。すべての業界用語や専門用語を覚えている人などいるわけがない。
 私がhiroさんのファイルを聞き直して修正できるのは、例えば10年も発注してくれているクライアントだったりして、私がその業界の言葉になじんでいるからにすぎない。
 hiroさんの起こしを聞き直すときは、そういう特殊な用語を直すだけでほぼ仕上がる。句読点の位置や段落替えの位置が自然だし、誤字や全半角の間違いがない。つまり、ベースとなる部分が安定しているので、修正が単語単位で済む。

 というようなことを私が伝えるちょっと前に、テープ起こしを手伝った別の人からも同様のことをhiroさんは言われたという。
 グループのリーダーさんから「もっと自信を持って」と言われてきたhiroさんは、テープ起こしの場合の良い仕上がりということについて、納得しつつあるようだ。データ入力系での良い仕上がりとは少し違う、ということについて。

 11月13日の佐賀セミナー、私の出番は午後からだったので、午前中、hiroさんが佐賀までの途中で太宰府天満宮を案内してくれた。もみじと青空の下で、焼きたての「梅が枝餅」を一緒に食べた…。
 というわけで、明日からhiroさんと私の「連載を終えて」を掲載して、今回の連載は終わり。hiroさんありがとうございました。

連載を終えて…1
(hiroさんにコメントをいただきました)

 廿さんから「セミナーで佐賀に行きます。お会いできませんか?」とメールをいただきビックリ! 東京の交流会でお会いした時は、みんなとワイワイとお話できたのですが、今度は1対1。嬉しいながらもパニクってしまいました。しかもその後に、話した内容を連載したいとのお話があり、2度ビックリ!!

 ザイニューは読ませていただいていますが、登場する方はバリバリと働いている方ばかり。屋号も持たずにヘルプばかりやっている私が何故? 何も書くことがないのでは? と思ったのですが、これから在宅ワークを目指している人たちにとっては、私のような普通の人間のほうがハードルが低くて、スタート地点での目標になるのかな? とも思い、お受けすることにしました。

 母を早くに亡くし、家でやれる仕事ならと思い始めた在宅ワーク。ひとり暮らしの父にいつでも会いに行けるようにと思い、続けていましたが、その父も昨年他界。今度こそ外に出ようとも思ったのですが、あと何年一緒に居られるかわからない娘たちとの時間を大切にしたいとも思うようになりました。

 廿さんには、教えていただくことばかりなのですが、いつもとても分かりやすく的確な答えがいただけるので、とても勉強になります。
 また、とても有名な方なのに、お会いしてもそれをちっとも感じさせないし、メールに思わず微笑んでしまうような一文を添えていただけることもあり、楽しくお仕事させていただいています。私は、廿さんからお仕事がいただけて本当にラッキーだと思います。

 遠い九州からではありますが、またお会いできるのを楽しみにしています。
 これからもどうぞよろしくお願いいたします。

連載を終えて…2

 今年も忙しかった。
 ようやく年末にたどり着いた…。もう力が抜けてやる気が出ない。我が家で「電池切れ」と呼ぶ状態だ。年内に仕上げておきたい仕事があるのに。そもそも、この連載だって先週のうちに終わるはずだったのに。

 振り返ってみれば、今年の1月は末期がんの義父がいつどうなるかわからず、万一のときのセミナー講師を山本牧子さんにお願いしていた。2月に義父が亡くなって、仕事はhiroさんや文月さんをはじめとする多くの方の力を借りた。
 安心してお願いできる人がいるのは本当に心強かった。

 前年の外注費が100万近くもかかったので、今年は絞るぞ、自分でやるぞ!と思っていたのだけど、やっぱりそうはいかなかった。終わってみたら、今年の外注費は200万。
 でも結局、頼めるものは頼むと割り切った方が、私の仕事はうまく回るようだ。

 …うーん、hiroさん記事のあとがきになってないような気もする。でも、私の中では、これはつながっている問題なのだ。

 なので、もうちょっと書いてしまうと。
 hiroさんや文月さんなど「入力していると楽しい、仕事があれば何時間でもやらずにいられない」という人たちに比べると、私は入力に向いてない。
 入力は好きだけど、時間がかかるといらいらしてくる。どうやって時間を短縮するか、そればかり考えている。

 例えば変換されないといらだつので、専門用語を片っ端から単語登録。そのファイルをメンバーに公開して、必要ならダウンロードして使ってもらえるようにした。私からお願いしている人たちは、案外苦にせずコツコツ変換しているのかもしれないけど。

 過去に作った文書からガーッと収集する方法はないかと考えて、ジャパニスト2003を買ってみた。
 テープ起こししたファイルを読み込ませると、普通に変換できない言葉を自動収集して、単語登録してくれる。何文書読み込ませても、重複なしにうまく拾ってくれて、便利便利。ジャパニストとATOKでは品詞の分類が違うので、エクセルに貼り付けて品詞名を変換。

 そんな実験に半日つぶしているから、ますます入力する時間がない。便利ツールを作っている方が好きだというのは、入力者としてどうなのか。
 私は、便利ツール提供も含めて、入力者が仕事しやすい環境を整える側へ回った方が賢いんじゃないだろうか。といっても、自分が入力していないと何が便利か判断できないから、当然入力もするけど。

 自分の立場をそう決めてみると、来年どうなるかは明白だ。hiroさんにも他の方々にも、ますます頼ることになる。頼ろう。いい仕事を納品することがミッションなのだから。
 hiroさん記事の中だけど、今年の締めくくりの意味も込めて、hiroさんにも他の方にも。本当に一年間ありがとうございました。来年もよろしく。

|