辞められない、辞めたくない
(それにしても、お義父様、お義母様という文字は、画数が多いせいかやたらぎょうぎょうしい。ここからは単にお父様お母様で。つまり「牧子さんのご主人のお父様お母様」だ)
お父様は、がん発覚後3カ月を自宅、3カ月を病院で過ごされたわけだが、自宅療養中にベッドから落ちること1回、お風呂でお風呂椅子からずり落ちること1回、だったという。80歳過ぎの高齢ですでに筋力が落ちていることもあり、自分では起きあがれない。どちらもお母様はそばにいたが、お母様も70歳近いから、一人では助け起こせなかった。
「ところがね、義父が牧ちゃんは呼ぶなって義母を止めたんですよ。牧ちゃんも忙しいんだから呼ぶなって」
思いやりはありがたいが、具合が悪くなったら結局みんなが苦労するのだから、直ちに呼んでもらうほうがいい。せっかく隣の家にいるのだから。
若い人に迷惑をかけたくないというこの世代の気概は、病気になったとき自分を支える力になるとはいえ、お母様も大変だったと思う。その疲れがたまったか、お母様はお父様が亡くなる2週間前に右手首を骨折した。牧子さんはますます忙しくなった。
牧子さんは、お母様が骨折したとき「自分が仕事を辞めよう」と一度は決心したという。お父様はもう最期を覚悟する状態だったし、お母様も骨折からこの先どの程度回復するかわからない。
仕事を辞めるためには、このクライアントをこの人に譲って、このクライアントは…。
牧子さんは、お母様の骨折以前に、かなりのクライアントを人に紹介(つまり譲って)していた。だからこの時点で受注していたのは、長年のお客さんばかり。「こういう内容ですからこうしましょうか」「こうしたらもっと使いやすいですか」と打ち合わせをしながら、一緒に考え、工夫してきた大切な相手ばかりだった。
それを断る、誰かを紹介する。仕事を辞める。
考えていくうち、牧子さんは涙が出てきた。だめだ、辞められない。辞めたくない。なんとか続けていく方法を考えよう。
うちのことはいいのよとお母様は恐縮するが、骨折が右手首では高齢だろうと若かろうと手助けがいるのは仕方ない。牧子さんは2軒分の家事を背負い込むことになった。
がむしゃらに頑張るラストスパート。葬儀前後の仕事ができない10日間。そして遅れた分を取り戻すべく朝5時起きして、今度はがむしゃらに仕事。
うーん、参考になる。なりすぎて胃が痛くなってきた…。
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