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クライアントとの距離が遠い…

 今日も、牧子さんの通信教育講座時代の続き。

「1回目の修了試験で、私は合格に1点足りなかったんです。普通のテレコを操作してたから聞き取りに集中できなかった、トランスクライバーを使おう!と思って、すぐ買ってきました」
「トランスクライバーのこと、知ってたんですか? 教材に書いてあったんですか?」
 書いてあったという。トランスクライバーは高価だが、フットスイッチで音声の再生・停止などを操作でき、両手は入力に専念できる。録音媒体がカセットテープ中心だった当時は、プロの必需品だった。それを勧めているということはしっかりした教材だったのだろう。

「修了試験の後、就職の相談にのってもらおうと思って電話しても、試験に受かるまではけんもほろろの扱いでした。でも3カ月後、再試験に合格したら態度が一変!『おめでとうございます。よかったですねぇ』と本当にうれしそうに言ってくださって、その後、2週間ぐらいで系列会社から仕事を出してくれて、報酬金額も良かったですよ。業界でよくいわれる最低料金なんていうことはなかったですね」

 この話は考えさせられる。
 「テープ起こしは簡単。修了すれば確実に仕事を出す」と釣って、再試験や追加講習などにさんざんお金を取ったあげく、ほとんど誰も合格させないように作られた悪徳講座もかつては多かった。しかし、それなりに良心的に作られた講座を受講して「修了試験に合格しない! 仕事を紹介してもらえない! 詐欺だ!」というクレームの中には、本人の実力が足りなかったというケースも含まれているのではないだろうか。

〔牧子さんのコメント〕
 私も、実はちょっと疑いました。「1点足りないって何? もしかして落としてない?」って。でも、とにかくもう一度だけ受けてみようと思って。それで不合格なら、それから疑えばいい。今は、1回目は本当に実力がなかったんだなと思っています。

 テープ起こしというのは案外難しい仕事だ。私が「タレントになりたい、タレントスクールに行く」と言い出したら誰でも「無理だ」と止めるだろう。同様にテープ起こしだって適性や才能や、いろいろなものが必要なのだ。
 通信教育が「テープ起こしは誰でも簡単に習得できる」というニュアンスで、まして「確実に仕事を紹介」と売るのは問題だ(通信教育が直接仕事をあっせんするのは法に触れるので、別会社からという形式にするわけだが)。
 かといって、「すごく難しいです!」と売るのもギャグだしねえ…。

 ともあれ牧子さんは、修了した講座のほかにいわゆる登録会社からも仕事を受注して、順調に経験を積んでいった。
 だが次第に、受注方法を変えようという気持ちがふくらんでいった。クライアントとの距離が遠すぎるからだ。
 疑問点があっても、直接問い合わせられない。牧子さん→登録会社の在宅ワーカー担当者→登録会社の営業担当者→クライアントという順に質問が上がっていき、この順番に下りてくる。途中でうやむやになってしまうことが何度もあった。
 牧子さんは、一度引き受けたことは最後まできっちり仕上げないと気が済まない性格だ。だからエージェント経由をやめ、出版社などからの直請けに切り替えていった。

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