2007年6月号文月さんとの対談3

向いている人には2つの「き」がある

廿:直請けの単価だと、仕事が1本ずつ順に途切れなく来て、人に頼まないで1人でやれれば結構お金になるはずなんです。でもそういうふうにコンスタントに来るってことは絶対ない、空いた時間ができたり、重なって誰かにお願いしなきゃいけないから、実質の収入はもっと少ない。

文月●そうですよね。

廿:でも本当はかなり稼がないと、パソコンの買い換えとか経費にお金をかけられない。なかなかそうならないですよね。直請けしないで、会社に登録して仕事もらってると、まして大した収入にはならない。

文月●うん。会社の仕事だけでやってたときは、忙しい時期はとっても忙しくて、寝る時間も削って毎日毎日やって、それでも○万ぐらいだもん。お金だけを気にするわけじゃないけど、やっぱり、外に出ちゃおうかなって思っちゃうじゃないですか。

廿:当然ですよね。パートなら経費がかからないし。

文月●それに、パートなら拘束されるのは出てる時間だけ。帰ってきちゃえば仕事のことはすっかり忘れていられるでしょ。家で仕事だと、常に仕事がそばにある。

廿:休まらない。切り替えがしにくいですよね。
でもテープ起こしの会社も今は難しくなっていて。昔は入力者同士に横のつながりがなかったから、囲い込んで「これがうちのやり方なんだ」って教え込めた。今は入力者同士が情報を交換してしまうでしょう。それに、専属でいてくれない。せっかく苦労して教えると、やめちゃったり独立しちゃったり。

文月●そうか…。

廿:だから会社側も、「マジかよー」と思ってるんです。文月さんぐらい何年もやってれば、会社にとってはもう元が取れてるけれども、続かない人は本当に続かないしね。

文月●そうですよね。この仕事って、好きじゃなきゃ続かないもん。好きで、根気がないと、できない。たとえ根気があっても、嫌いじゃ無理だと思いますよ。

廿:それだ。好きと根気の両方。

収入と経費、仕事と休息の切り換え、在宅ワークとパートの違い。日ごろ「マジかよー」(いや、上品に「マジでございますか?」←違うってば)と感じているような問題が、自然に列挙された。一方で、出す側も昨今は「マジかよー」と困惑している。
「好き」と「根気」がこの仕事を続けていける人の条件というのは、文月さんらしい考え方だと思う。私って、テープ起こしは一応好きだけど根気がないのがまずいなあと、なんだか反省しつつ、6月号の対談は終わり。

明日から文月さんと私の「対談を終えて」とイベント告知、それから数日お休みして、7月号の連載を開始する予定です。

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ソフトや機材は重視しない

廿:起こすとき、いろんなソフト使ってます?

文月●ううん、おこしやすと秀丸エディタだけ。

廿:ヘッドホンは? いくつも使う人は、最初は軽いヘッドホンを使って起こして、聞き直しには、重いけど密閉型で高性能なのを使う、そうすると聞き取れるときがあるっていうふうに使い分けるみたい。私はiPod売り場に売ってた安物使ってるけど。

文月●私も1種類だけ。耳にスポッと入る型のイヤホンですよ。でも一回替えたら新しいのはすごく聞きやすかった。

廿:聞き直すとき、いろんなソフトで再生してみるとかは? 私はやらないけど。

文月●ううん、全然。だから私、テープ起こしに自信を持って「専業でやります」って言えないところがある。全然完璧じゃないし…最後まで追求しない。「聞こえないところは聞こえない」にしちゃうんですよ。

廿:ですよねー! それでいきましょう。合意に至った(笑)。
雑誌◇◇の仕事はね、あれでいいんです。用途によるじゃないですか。地方議会の会議録みたいに完成品として永久保存されるものと違って、◇◇は取材した本人が記事を書くんだから、大事なことなら本人が覚えているはず。本人が思い出せないなら大事なところじゃないから、どうせ記事には使われない(笑)。

文月●好きだわー、私、廿さんのそういう性格。

ライターは、取材中すでに「この話は使える」「ここはいらない」という判断をしている。起こし位置の指定をするのが面倒だから音声全部を起こせと言っているだけで、最初から「捨て」の部分があるわけだ。
念のため書いておくと、文月さんはそもそも「聞こえないところ」が少ない。

廿:それでも、やっぱりそこでとことんこだわる人のほうが、テープ起こし専業を選ぶような気がする。

文月●たぶんそうなんですよ。音声だって自分でいじるソフトってあるんでしょう? おこしやすにも多少イコライザーがついてるけど。

廿:ついてますよね。つまみをこのぐらいにすると聞こえるときが、たまにある。

文月●でも、音をほかのソフトに落として加工するともっと聞こえるとか、やろうと思えばいろいろあるんでしょう?

廿:あるみたいですね。

文月●私、そういうのうとくて、全然わからなくて。

廿:私もやろうと思わない。突き詰めて言えば、正確に起こしてほしかったら、先方が上手にしゃべって上手に録音をしてくれるしかないから。

文月●そうなんですよ。ちゃんと資料もつけてほしいし。資料が来ちゃうと、「あ、これは完璧に仕上げなきゃいけない」って思いますよね(笑)。

廿:思いますねー。

先日お願いした某企業日米会議の起こしでは、資料のほとんどが英語で、しかも膨大なページ数だった。文月さんはそんな資料から商品名などを確認してくれて、感謝。

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大量の仕事が入ってきちゃう

廿:せっかく仕事を打診してくれた相手を断るのは心苦しいから、当てになる人を紹介してあげたいと思うときはあるんですよ。実際に私は、過去何度かクライアントを同業者に譲ってます。でもそういう紹介は、大っぴらに募集をかけるわけにはいかないんですよ。

文月●そうでしょうね。やたらな人には紹介できないし。

廿:それに、自分がすごく頼っていつもお願いしている人に紹介しちゃうと、その人は忙しくなってこっちの仕事はやってくれなくなる。

文月●う…、あはは。

廿:でも、文月さんはどうなのかなと思ってたんですよ。外の仕事と掛け持ちしてらっしゃるから、外の仕事をメインにしてだんだんテープ起こしを縮小していくこともありえるわけでしょう。

文月●そのへんは今、本当に迷ってるところ。

廿:直請けって、一度に大量の仕事が入ってきちゃうときがあるんです。きっかり1人分は絶対来ない。そうしたら自分がヘルプを出す側になる。出す側になることって、好きな人と嫌いな人がいるんですよね。

いや、この世界は自分でテープ起こしをやりたい性格の人が多いから、「出すのが好きな人」ってあんまりいない。「比較的、苦にならない人」と「嫌いな人」のほうが正確かも。

文月●うーん、私、それは…。人をとりまとめるのとか、だめ…。

廿:募集をかけたり、選考したり、質問に答えたり、支払いをしたり。

文月●それって、テープ起こしの作業自体より大変じゃないですか?

廿:うん、だから私は、ちょっとの仕事を当てになる人にだけお願いするという方式でやってます。何十人も使うなんてとてもできないから。

文月●ですよねえ。

廿:今、常時お願いしている人はテープ起こしで3、4人かな。データ入力のほうも3人ぐらい。

雇用者系の場合は出す側が量をコントロールしてくれるのに対し、事業者系の場合は出す側がそういう配慮をしないことが多い。むしろ、たくさん発注すれば喜ぶと思っているかもしれない。
再委託禁止の雇用者系と違って、事業者系の形態では、どかっと来た仕事を小分けして同業者に再委託する(→ヘルプに出す)ことができる。

ヘルプに出すと、その管理業務が発生するので起こす作業に専念できない。起こすのが大好きというタイプにはストレスになる。
もっとも、もしやってみれば、文月さんも「私ってこういうことも案外できるじゃない」と感じるんじゃないかと思うけど。

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私には営業の才能が全くない

文月●廿さんは、仕事って営業して取ってくるの?

廿:去年はすごく仕事が少なくて、急きょ営業用のホームページを作ったんだけど、今度は仕事が来過ぎちゃって、やっぱり古いお客さんを優先せざるをえなかったので、結局ホームページは営業ストップ。

テープ起こし系の顧客獲得について私が語っている部分はカット。なぜというに…、読み返してみると、たぶん文月さんが私に尋ねたかったのは顧客獲得の具体的な方法ではないのだ。

廿:(中略)…だから出版関係は、出してくれる人を1人見つければ、ほかの人にも紹介してもらえるから芋づる式ですね。

文月●私、自分で仕事をじかに受注したことが一切なくて。まあ、何も活動してないから当然なんだけど。

廿:直請け、やりたいと思います?

文月●ホームページ作るところからやろうかと、最初は思ったの。そう思ってるところに、急に登録会社経由の忙しい波が来てその機を逃してしまって、結局ずっと下請け状態。…私、営業の才能が全くないんですよ。パソコンも全然くわしくないんです。

廿:直請けしたほうがお金はいいじゃないですか。

文月●うん、本当に。それで生計立てる!って最初は気負ってたんだけど、挫折っていうか、その時間もなかった。もちろん時間は作るものなんだろうけど…。

文月さんが「営業の才能」と呼んでいるのは具体的に何だろうか。それは本当に文月さんには「全くない」のだろうか。

と考える前に、「直請け」「下請け」という表現をもうちょっとクリアにしておきたい。
例えば、講演会を開催するA社が広告代理店B社にイベント運営を委託している場合、A社から講演のテープ起こしを受注するのが直請けで、B社から受注するのは下請けだろうと思う。
でも仲間内では、同業者(テープ起こしの会社、グループ、個人)から受注することを下請けと呼び、異業種から受注する場合はA社からでもB社からでも直請けと呼ぶような気がする。

私なりに整理してみると、まず直請けと呼ばれている形態は、「事業者性」の強さを意味する。発注者と対等の(本当はそうでもないけど)事業者同士として商談し、価格交渉する、その代わり発注者はテープ起こしの専門家ではないので頼れない、自分で納品物の品質に責任を持つ、というような。
これに対し、下請けと呼ばれている形態は「雇用者性」が強い。発注者に会うとすれば「商談」ではなく「採用時の面接」というニュアンスだし、パートの採用面接で「うちは時給○円からスタートです」と言われたら「はい」と答えるのと同様、価格交渉はしない。その代わり、発注者がテープ起こしを知っているのである程度寄りかかれる。

文月さんがここで言いたかったことや尋ねたかったことを、話している時点で気づいて掘り下げていればと悔しい。雇用者系で仕事してきた人が事業者系に移りたいとき、発注者との関係において何が障害になるか、どういう点で迷うか。大事なところだったのに…。文月さんに営業の才能がないとは思えないのに。
でも、私は別の角度からこの問題をもう一度取り上げている。それは次回。

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