2007年6月号文月さんとの対談2

頑張ってるのに寂しい

文月●それとね、会社から評価してもらってない気がして寂しいの。私も完璧にテープ起こしができる、完璧な原稿を仕上げるって自信はないけど…。

廿:いや、そんな自信は当然誰にもないから。

文月●廿さんは評価してくださってるから、うれしくて。

廿:うーん…。たしかに、何か言ってほしいって気持ちはありますよね。お金は安くてもいいから、何か言ってほしい。

文月●そう。ただ仕事を出してくれるばっかりで、何の評価も。人間なんて、ほめられれば調子に乗ってもっと頑張ろうって気持ちになるでしょ。そういう気持ちがこのところ、会社に対してなくなってきちゃったんだなあ。

廿:そういうことになるとつらいですよね。

文月●これだけ私は頑張ってるのにって気持ちになってくる。テープ起こしをしても、しても、しても、しても…って感じ。それもあって、外に出たくなって、ホームヘルパーを始めたの。

「評価してるから、こんなに何年も続けて仕事を出してるんじゃないか!」と会社側は言うかもしれない。でも、やっぱりそれを何か、言葉や態度に出してほしいと思うのは当然だ。
文月さんが登録している会社は遠方で、直接顔を合わせることがない。それでもというか、だからこそというか、ほんのちょっとの配慮で人は気持ちよく働けるものなのに。

こういう切実な声を聞くと、私の出身会社の、社長の超・温情主義とか、チーフが在宅さんに温かく声をかけていたことは良かったんだなと思う。
「お子さん、運動会だったんじゃない? どうだった?」とか、チーフは相手の家庭の事情までよく知っていて気を使っていた。そのチーフから、「お願い、あと100件。あなたが頼りなの。やってもらえる? わあ、ホントに助かる!」と言われると、在宅さんはうれしい。仕事を一方的に割り当てるシステムの中では、そういう人間的なお願いや感謝はまさに潤滑油なのだ。

下請けしている作業者は、クライアントにじかに接触することができない。極端な会社はクライアントが誰なのか教えない(中抜きを防ぐため)。
だから、納品した仕事がどう使われたのかわからないし、クライアントの評価もわからない。お金の問題よりも、そういう手応えのなさがつらくて直請けに転向する人もいる。

だから中間業者(会社以外にグループや個人も含む)は、「仕事をさせる/お金を払う」というだけの関係に陥らず、人間的なつながりを持つこと、相手を認めること、ほめること、感謝することを、真剣に心掛けなければいけない。

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極端な拘束とほったらかし

文月●ただ、私の個人的な悩みは、登録してる会社が…、会社に登録して仕事もらったことあります?

廿:テープ起こし専業のところは少ししか経験ない。入力会社から入力とテープ起こしを両方もらうのは、2年ぐらいやってたけど。なぜ?

文月●あの…、すごく拘束されてるような気がするのね。「この日は休みます」って事前に言っておけば、休みにはしてくれる。だけど、スケジュール表が毎日来るんですよ。忙しいときはビッシリ。

廿:私がパートをしていた入力会社もそうだったけど、原則的には休み届を出さなかった日は全部働けるとみなされている、ということですよね。

文月●そう。それなのに、仕事のないときは全く、ぷっつり来ない。

廿:ああ、皆さんごめんなさい…。私、仕事出す側だったんで…。

文月●夜にメールで来たスケジュールを見て、明日仕事があるかお休みか、その時点でやっとわかる。明日の自分の予定が、前の夜にならないとわからないの。

廿:前日の夜にわかればまし、ってぐらい、私が勤めていた会社もすごいシステムでしたよ。自転車で通える距離の人しか採用しなくて、電話したらその日のうちに会社へ仕事を取りに来てもらうの。昔からの会社って、多かれ少なかれそういうシステムですよね。

文月●そうなのか…。でもそうだろうなと思いますね、やっぱり会社としてやってる以上は。

廿:繁忙期はそうやってガンガン拘束して、夏とかは仕事が夏枯れするから、全然お仕事を出してあげられない人もいる。

それってひどいんじゃないのと、社内でもずいぶん議論されたのだけど、名案は見つからなかった。ない仕事は出せないし。
お客さんから原稿が入る日程も分量もころころ変わるから、事前にスケジュール予告をしておくことができない。結果として、繁忙期は拘束し、閑散期はほったらかしという待遇になってしまう。

文月●もう登録会社からの仕事じゃなくて、ヘルプばっかりやろうかと思うときもあるの。それはそれで、波がもっとあるだろうとは思うんですよ。ただ、自分から手を挙げて仕事をもらうわけだから、一方的に束縛されるのとは気分が違う気がして。

廿:ああ、そういう気分の問題は大きいですよね。

彼女の会社や私の出身会社は、会社側が作業者に仕事を一方的に割り当てる。一方、5月号でお話を聞いた畔見さんなどは、グループメンバーに仕事情報を流して手を挙げてもらう方法を取っている。そうすると誰もやってくれないときがあって、出す側が苦労する。出す側も受ける側も悩みは深い。

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徹夜してでも片付けたい!

文月●今は子供にもお金がかかる時期だし、お金を稼ごうという気持ちになるから、自分の自由な時間がまったくなくなってしまう。例えば明日は仕事がないとホッとしてても、ヘルプの依頼があると「じゃあ、明日も遊ばないで仕事しちゃおうかなあ」って、私の性格が貧乏性なのかしら、仕事するほうを選んじゃうの。

廿:つい仕事をしてしまうような人でないと、とてもこの仕事はやっていけない(笑)。みんなそうですよ。「これを早く終わらせて遊ぼう」と思ってるところに仕事が入ってくると、「できるからやっちゃおう」って。

文月●納期に余裕があっても、私、手元に残ってる仕事があるとすごく嫌で、何をおいてもさっさと片付けたくなっちゃうの。徹夜してでも納期より前に終わらせて「終わったー!」ってしたいんですよ。そこにまた仕事が来ると、「じゃ、それもやっちゃおうかなあ」。

廿:「ちょうど時間もあるし」って。自分が無理して作った時間なのに、何が「ちょうど」なんだか(笑)。でも私は今、仕事が2本重なってるぐらいなら、「ひまだー、遊んじゃお」。5本ぐらい重ならないと焦らないですね。

文月●すごいすごい。

廿:自分で全部やろうという発想はやめて、お願いできるものはお願いしてるんです。なので、なおさら一度に何件も並行しちゃうんですよ。「今、あの方にあれをお願いしてるから、その間にこっちをやる、あれが戻ってきたら仕上げよう、文月さんのはまだ先だし」と思ってると、文月さんが途方もなく早く納品してくれて、「うわ、もう戻ってきた、早すぎる!」って。

文月●わはは。とにかく、テープ起こしの仕事があるときは、家にいるときはパソコン開きっぱなし。台所と近いんで、煮物をしてる合間にもバシバシ打ってて、「おっと、煮込みすぎちゃう」ってあわてたり。

廿:何がなんでも終わるまでやる。テープ起こしの好きな人はみんな、そういう意味では狂ってますよね。

文月●そうみたい。全然苦じゃないんですよ。楽しいっていうか、「この仕事をこんなに早く終わらせた!」みたいな快感を得ていますよね。

廿:10分で何文字起こせるか数えたりね。

冒頭部分では「子供にお金がかかるから仕事せざるをえない」というニュアンスだったのに、最後には「テープ起こしが好きだからどうにも止まらない」という話になっている(笑)。テープ起こしを長くやっている人は、お金も欲しいけどやっぱり「好きだから」が強い、という部分が共通している。

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でも自分が中途半端な感じ

文月●でも私、今自分が中途半端な感じで、実はとても嫌なの。

廿:なんで?

文月●何が本業なんだかわからないというか…。

廿:ホームヘルパーとテープ起こしの両立の話も伺おうと思ってたんですよ。私自身も外に出たいという気持ちがあって。今あまりに運動不足だから、スーパーの品出しみたいな、立ったりしゃがんだり荷物を運んだりするような仕事をやりたいと、切実に思ってるんです。

文月●いいかもしれない。私、外に出たてのころ新鮮でしたよ。子育てと在宅ワークでずっと家にいたでしょう。他人と話すのは幼稚園の送り迎えのとき、お母さん同士のおしゃべりぐらいなのに、子供が小学校に上がっちゃうとそれもなくなっちゃうでしょう。そこで外に出たいなと思ったんだけど、小学生ぐらいって夏休みのこととか考えると、まともに正社員で出るってことはしにくいし。

廿:ですよねー。今は週何回とか決まってるんですか?

文月●ヘルパーは月曜から金曜の毎日午前中に行ってます。午後にも入ることがあります。

廿:高齢者のお宅に…それって資格があるんでしたっけ。

文月●ホームヘルパー2級。3級もあるけど、2級を取れば結構どこでも働ける。ただ、この仕事はいい面と悪い面、両方あって。

廿:悪い面は?

文月●死んじゃうと悲しい。

廿:そういうこともあるのか…。

文月●やっぱりお年寄りだし、お別れがあるんですよ。仕事で通っていても情が移るじゃない? 悲しいよー。あとはね、若いエネルギーがお年寄りに吸い取られていく。

廿:「保育士さんは子供にエネルギーをもらっていつも若い」の逆だ!

文月●そんな感じ。でも、時間に融通が利くからいい仕事だと思いますよ。午前中2、3時間ちょこっと行って帰ってきて、また夕方とか。自分で時間を選べるからね。

廿:そういう仕事だから、テープ起こしを続けられるわけですね。

文月●そうなんです。それと、お年寄りが入院しちゃうことがあるのね。例えば月曜と水曜はAさんの家に行ってて、そのAさんが入院すると、月・水は急に仕事がなくなってしまう。そのときテープ起こしの仕事があればやるとか、自分に都合よく、テープ起こしとヘルパーの仕事を組み立てて、両方やれるわけです。

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