2007年6月号文月さんとの対談1

目がくっついたらおしまい

廿:でもこんな言い方をしたら失礼だけど、40になってよくそれだけ打てますよね。肩こりとかは…。

文月●しますよー!

廿:します? 私、がぜん集中力がなくなって、すぐ疲れるんだけど。

文月●うん、あと、寝不足が耐えられなくなった。

廿:私も夜中にやっちゃうと、次の日できなくなった。ライターでも、この年齢を境にして、もっと続けていこうと思う人は編集プロダクションを持って、若い人を使うようになるのがよくあるルートらしいんです。ライターはテープ起こし以上に過酷な仕事が多いから。

文月●起こしてる間はいいんだけど、終わったあと「終わった…もう何もしたくない…」、その回復するまでの時間がかかるようになったかなって気はします。でも私、早起きは結構大丈夫なんです。早く寝て、5時ごろ起きてやることはありますよ。

廿:偉ーい! 朝は電話も来ないし、すごく集中してできそうですよね。

文月●この仕事の便利なところは、朝5時に起きてパジャマのまま仕事ができる(笑)。

廿:谷頭さんも昔、ジャージ(だったかな?)で暮らす生活から抜け出したくないって言ってた。

文月●家で仕事するのって、無駄な時間なく過ごせますよね。

廿:そういう意味ではそうですよね。お風呂に入ってから続きをすることもできるしね。

文月●夜、眠くなるまで仕事をするとか。

廿:目がくっついたらおしまい。

文月●10分ぐらいやると「あ、もうだめだ、寝よう」。

廿:いずこも同じ(笑)。

文月●うん、でも嫌いじゃないんで。テープ起こしって、私にとっては趣味みたいなもの。

廿:見るからに好きそうだもの。紙の雑誌のザイニューをやってたころ同業者にずいぶん取材に行って、私だんだんわかってきたの。いくらブーブー言ってても、この仕事が好きな人は好きだから離れられないっていうことが。

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興味の持てない仕事にどう取り組むか

廿:会社からの仕事は議会が多いんですか?

文月●私は議会はないです。講演とか会議とか。あと、大学の講義とか研究関係とかは結構ある。

廿:そういう知的な内容、好きですか?

文月●嫌いじゃない。検索が好きかも。ヒットしたときの快感。

廿:ときどきお願いしてる「月刊△△」の仕事って、内容理解できないですよねー。

文月●最初わけわかんなくてね。この人たち何の話してるんだろうって。興味がない話や聞いたこともない単語って、起こすけど頭を素通りしますよね。興味のある話だと「面白い、これは得したぞ」って思うんだけど。

廿:うん。△△の姉妹誌「月刊○○」なんか、私もう何年やってるかわかんないのに、いまだにさっぱりわからないですもん。始めたときは、「この分野でわかりやすい入門書があったら紹介してください」ってクライアントにお願いして、相手の勧めてくれた本を買って読んだんですよ。にもかかわらず、いまだに理解できてない。
話の内容に興味が持てない仕事にモチベーションを維持する方法って、なんかあります?

文月●それはとにかくスピードでしょう、スピード(笑)。「これだけ速く終わったわ!」っていうのを快感にする。

廿:ああ、なるほど。スピードの快感って、たしかにありますよね。「ささっと片付ける、この速さ! すごい!」

文月●「私ってさすが!」みたいな。…でも、中身メチャクチャだったりするかも。

廿:文月さんのは中身メチャクチャじゃないですよ。

文月●本当ですか?

廿:録音状態の悪い仕事って、違う耳で聞いたら聞き取れるときってあるでしょう。そういう意味で見つけることはあるけれども、そのぐらい。

文月●合格? よかった!

廿:文月さんの起こしでは、「全然違うでしょうが!」って言葉が入ってるのは見たことない。

「全然違う起こし」の例として、「未必の故意(みひつのこい)」という法律用語を知らず、「密室の恋」と起こしたという笑い話が有名。前後関係から明らかに「密室の恋」ではないときは、たとえそう聞こえても不明で処理するか、ミッシツノコイと聞こえた通りにカナ書きする控え目さのほうがいいと思う。

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「時は流れた」…ほんの数年のことなのに

廿:以前、SOHOWORKネットのオンライン講座で谷頭千澄さんがテープ起こしコースを教えてたときね、谷頭さんはテープ起こしのことを教えるわけだけど、そもそも入力ができない人は、まだそういう理解や練習の段階まで行けない。
それに気づいて私が担当してた文字入力コースに入り直した人、何人もいましたね。「ちゃんと入力ができるようになってから、テープ起こしを勉強しなきゃだめだとわかりました」って。

文月●私、SOHOWORKネットの交流会で谷頭さんにお会いしました。ずいぶん前。

廿:あれから何年もたちましたよねえ。あのころから頑張ってきた人たちは、もうそろそろ子供が大きくなって外に仕事に出られる年齢になってたり、今この業界、ちょっと人手不足になってるらしいですよ。

文月●今、ヘルプの募集ってかなり出てますものね。

廿:うん、しかも「まだ募集中です、半分でもいいからやってくださる方」って出し直してたり。

文月●廿さんって何年生まれ?

廿:昭和39年。

文月●やっぱり? 私、40年。

廿:谷頭さんも40年で、早生まれだから私と学年は同じ。

入ってくる新人が減っている理由は、かつて花盛りだった「テープ起こしの通信教育講座」がほとんど消えたせいだ。通信教育が雑誌や新聞に大々的に広告を出していたころは、興味を持つ人が多くて、一種のブームになっていた。
その中で一番派手にやっていた会社(というのかその関連会社というのか)が、いわゆる内職商法として行政処分を受け、裁判沙汰にもなった。それ以来、この仕事の志望者はがたっと減った。

文月●谷頭さんにもご無沙汰して…っていうか、私が勝手に師匠と思い込んでるだけなんだけど。谷頭さんのほうは、私のことなんか覚えてないと思う。

廿:まあ、谷頭さんの講座は、SOHOWORKネットの講座の中でも一番受講者が多かったですからね。

文月●講座は今もやってるんですか?

廿:ううん、もう終わってます。SOHOWORKネットの主宰者もほかの方に替わられて、そちらでまた新しくオンライン講座をやってらっしゃるようです。

でも、谷頭さんは文月さん(というか本名のほう)を覚えているかも。SOHOWORKネットのメーリングリストには、「テープライターズメイト」という一種の分館があって、文月さんは(私も)そこの最初期からのメンバーだから。オンライン講座開始以前のことだ。
今調べたら、テープライターズメイトは、ヤフーのMLを使い始めたのが2002年5月。でもそれ以前にほかのシステムを使っていた時期があったから、活動開始はもっと古くて…いつだっけ? 今度調べよう。

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最初は遅かった

廿:文月さんってテープ起こし速いですよねー。どうやって速くなりました? もともと速かったですか?

文月●OL時代は一日中ワープロを打ってるような状態だったんです。ブラインドタッチはそこで身につけたかな。でもやっぱり、テープ起こしを始めた最初のころは遅かったですよ。1日でどのぐらい起こせたのかな…すごく遅かった。

廿:表記の辞書を見ながらやるわけでしょう。始めたばかりのころって、あれを引くのに時間がかかりますよね。

テープ起こしは、1つの仕事を複数の人間が分担して作業することも多いので、漢字やカタカナの使い方などを統一する基準が必要になる。その基準になる本を、ここでは表記の辞書と言っている。速記協会「標準用字用例辞典」ほかいくつか存在する。

文月●かかりましたね。でも私は、最初は辞書を引かないでとにかく起こすの。見直しの時点で直していくんですよ。そういうふうにしたら速かったかな。最近は、横に小さいウィンドウが出てくるソフトがあって。

廿:「かんぴょう」?

文月●それも使ったことあるけど、私の登録会社で指定されてるのは「現代国語表記辞典」っていう辞書なの。その表記に対応している「ザ・完字変換」っていうソフトがあって、入力はATOKだけど、ウィンドウが開いてその辞典の表記で出てくるの。でも今、あるでしょう、ほら…。

廿:ああ、ATOK用の「記者ハンドブック」辞書。使ってないけど。

文月●私も使ってない。早く入れなきゃと思ってるんだけど。

廿:テープ起こしを始めると表記は確認しなきゃいけない、ネットで検索しなきゃいけない、音は聞き取らなきゃいけない。そういうことに力を入れるには、それ以前の問題として入力がそこそこできないと無理ですよね、これから始める人へのアドバイスとしては。

文月●それが前提ですよね。こんな言い方はどうかと思うけど、聞きながら入力するなんて、入力初心者にはずっと先の話じゃないかなと思う。

廿:英語は出てくるし、専門用語は出てくるし、録音状態は悪いし。まず普通に入力ができなきゃ。

文月●うん。でも、できるようになりますけどね。それなりに努力する覚悟があれば(笑)。

廿:練習すればね。

そう、それなりに努力する覚悟があれば。

今回の話に出てきた本とソフトの紹介
現代国語表記辞典
記者ハンドブック
ザ・完字変換
ATOK
かんぴょうはサイト名だった。かんぴょうで公開されている漢字変換用辞書データは「好きじゃん辞書」。
ATOK 記者ハンドブック辞書 第10版 for ATOK

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異質な仕事を掛け持ちしている人

Web版『月刊在宅入力者』6月号は、文月さんにお話を伺った。
実は、この録音は数カ月前のもの。Web版ザイニューをやりたいなと思いつつなんとなくふんぎりがつかなかったころ、文月さんがうちに遊びにきてくださったので、会話を録音した。何に使うとも使わないとも決まっていないのに、録音させてくれた文月さんにひたすら感謝。

文月さんには、よくテープ起こしをお願いしている。
テープ起こしは、内容的に正確な聞き取りは当然必要だが、それ以外に句読点(特にテン)の打ち方とか段落替えの位置など明確な正解のない要素がある。文月さんは聞き取りの確実さはもちろん、そのへんのフィーリングが近いのでお願いしやすい。
おまけに仕事が速い。お子さんもいて、ホームヘルパーの仕事もされているから、時間があり余っているわけではないはずなのに。

入力系とライター系という「近い仕事」を掛け持ちしている私には、ホームヘルパーとテープ起こしという「異質な仕事」の両立に興味しんしん。外へ出ることと在宅で仕事すること、それぞれのメリット・デメリットも話題になる。
文月さんはテープ起こしの会社に登録して仕事をされる一方、私やいろいろな人のヘルプ(同業者からテープ起こしの下請けをすることを、慣例的に「ヘルプ」と呼ぶ)もされている。そこで、ヘルプ・登録・直請けをめぐる問題もいろいろ出てくる。
もちろん、テープ起こしそのものに関しても盛り上がり、対談の最後には「テープ起こしに向く人」の定義が(2人の間で)まとまっていく…。

対談者の自己紹介
文月(ハンドルネーム)
東京都在住。

1965年、神奈川県川崎市生まれ。短大卒業後、某外資系コンピュータ会社に就職。
出産と共に退職し、しばらく子育てに専念していました。
それはそれで楽しい毎日だったのですが、社会とのつながりを絶たれてしまった毎日に焦りを感じ、在宅で何かできないかと模索していたところ、テープ起こしという仕事にたどり着きました。それからはパソコンとにらめっこの毎日。
数年後…
子供も大きくなったし、家にじっとしていられなくなり、ホームヘルパー2級の資格を取得。高齢者介護の仕事に足を踏み入れることになりました。
現在、プロ野球選手になりたい長男(中2)と、Jリーガーになりたい次男(小5)、おまけに主人の食の管理に毎日頭を悩ませつつ、あるときはホームヘルパー、またあるときはテープ起こし職人として、日々精進しております。

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