2007年5月 畔見知子さん

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(2007年5月の連載を再構成したものです)

Web版『月刊在宅入力者』5月号は、約1カ月かけて畔見知子(あぜみともこ)さんと私との対談を連載する。畔見さんは、入力オフィスFour D's代表。高校卒業以来ずっと入力業界という、以前からお話を伺ってみたいと思っていたかただ。

データ入力系の仕事をめぐって、特にグループリーダーとメンバー(スタッフ)間の距離の難しさが繰り返し話題になる。それは、「会社の社長と社員」という明確な雇用関係ではなく、かといって「発注者と下請け作業者」という冷たい割り切り方のできる関係でもない。「プロ入力者同士の対等な取引」というには知識や意識やスキルの低いメンバーがいたり、かといってプロ意識の特に高いメンバーは自分のやり方を大切にするのでこれもお互いの関係が難しい。
私は、今データ入力を発注する相手が「約3名+まれに単発募集」と少ないため、以前勤めていた入力会社時代の経験を、畔見さんのケースと対比していることが多い。

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対談者
畔見 知子(あぜみ ともこ)
入力オフィスFour D's代表。埼玉県在住。

対談者の自己紹介と募集情報
1995年から在宅グループにてデータ入力の請負を始め、2002~2005年11月まで有限会社として起業しておりました(代表者の病気により廃業)。
現在は今のFour D's(グループ・個人事業主)に形態を戻し活動中です。

※Four D'sでは、全国各地で在宅入力業者(メンバー)の登録を行っております。
お仕事をコンスタントに出せる場合とそうでない場合がありますし、とても口うるさいオフィスではありますが(決まりが細かいです。特に報告・連絡・相談はうるさく言っています)、メンバー登録なさりたい方は是非ご連絡ください。

簡単なトライアルをさせていただく場合がございますので予めご了承下さい(無料です)。
※なるべく全てのメールにご返信をするように致しますが、業務多忙の時期はご返信がどうしても遅れてしまいます。その点ご了承いただきますようお願い致します。

お問い合わせは下記まで(画像になっています)
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グチ大会になるかも データ入力者オフ

廿:今度、データ入力系のオフ会でもやろうかと思ってるんですよ。テープ起こしの人同士はそれなりに交流があるんだけど、データ入力系はどうも交流が足りないから。

畔見●ぜひぜひ! でもすごいことになりそうかな。みんな口々に不満を言い出して(笑)。

廿:だけどお医者さんでも、産婦人科とか小児科とかはなり手が少ないっていうでしょう。開業してると別なんだけど、大学病院とかに勤めてるとあまりにも仕事が過酷で、そのわりにお給料が安い。

畔見●それって、データ入力の世界とかぶるところがありますよね。個人開業して企業から直接仕事を受注してれば別だけど、みたいな。

廿:人に雇われているというか、データ入力の場合は下請けしてる立場だと、ってことですよね。実際、私自身もお願いしているかたに大したお金をお支払いできてないし。

畔見●でも、すごくひどい会社もあるんですよね。文字入力の単価が1文字0.0…。

廿:そう! 0.いくつならまだしも、0.0いくつ。元請けがそれで、入力者にいくら払ってるのか。すーごく速い人が打ってもせいぜい時給換算100円にしかならないでしょう。

畔見●そんな単価で仕事をする人がいるっていうのが不思議。その何倍も出してるのにメンバーが定着しなくて、悩んでるのに。

廿:うん、以前お願いしたデータ入力の仕事、SOHOWORKネットのMLに文字単価0.45円で募集を出して、計算したら全然お金足りるんで、結局0.75でお支払いしたじゃないですか。0.45でも、そのとんでもないところよりずっと多い金額ですよね。でも3人しか応募がなかったんですよ。

畔見●そうなんですか! 応募者殺到して選に漏れちゃうかなと思ってたんですよ。

廿:畔見さんを落とすわけないじゃないですかー。でも、あれで3人ですからね。春休みだったからかな。そんなにキツい仕事だとは思わなかったんだけど。

畔見●かなり丁寧にやろうと思うぐらい日程がありましたよ(笑)。

これは冗談で、畔見さんは「丁寧じゃない仕事」というのがたぶんできない人だ。
それにしても面白いのは、忙しい人は「たまたまスケジュールが空いてるから」と、高くない仕事でも気さくに受けてくれること。テープ起こしでも「私ごときが、このかたにお願いしちゃっていいのかな、しかもこんな単価で」と恐縮するような人が、たまにやってくれる。スケジュールに空きができたらよそで経験を積む、ついでに多少のお金になるならますますOKという、柔軟でどん欲な姿勢に学びたい。

経験から成り立つ知識

畔見●ある求人サイトでメンバーを募集したことがあるんです。応募してきた人に、最初は簡単なお仕事頼んだんですよ。それが、ボロボロ。入力をやりたいのに、こんなに文字ミスがあっていいのか!っていう納品物、仕事をなめてるとしか思えない。

廿:それはね、仕事をなめてるっていうより、たぶんポイントがつかめてないんですよ。文字だけを打つ仕事って、普通あんまりないんですよね。見やすい表を作るとかいうことが普通は重視されている。でも、「原稿に書いてある通り+仕様書通りに打ってくれればいい」としか、こっちは説明しようがないでしょう。データ入力っていう仕事のポイントがどこにあるのかは、教えにくい。

畔見●経験のある人だと、そのデータが最終的に何に使われるかを説明すると、ポイントをわかってくれることがあるんですけど、自分がやってるものが何に使われるかを想像もしない人がいる。そうすると、何を説明してもわからない。

廿:うん。テープ起こしのほうでも、口調を再現することが重視されているのか、ある程度文章として整えたほうがいいのかってことに、応用がきかない人はいますね。整える場合は例を挙げて説明するんだけど、例に入ってない言葉はそのままだったりして。

畔見●宛名入力で、郵便番号の下4ケタが8で始まるものは大口事業所の番号ですよね。それを「変換できないから間違いでは?」って言ってくる人が、いまだにいるんですよ。専門職をやるのであれば、専門以外の知識も必要なんだ!って言いたいんです。今、資格、資格になっちゃってるじゃないですか。「MOUSを持ってます」とか。実務の経験がないせいもあるんだけど、経験から成り立つ知識っていうのがないんですよ。

廿:でも、それは最近そうなったわけではなくて、畔見さんがこの業界で生き残ってきた間に、生き残らなかった人が大勢いるはずなんですよ。知識とか応用力とかがなくてね。私は応用力みたいなものはそこそこあるような気がするけど、手の速さとか耐久力とかはイマイチ。誤字もあるような気がする。

畔見●ええっ(笑)。

廿:極端に多くはないと思うけど、入力精度99.95%を維持しているかはビミョー。だって、自力で、単独でそれをクリアできる人ってスタープレーヤーで、そんなに大勢はいないですよ。だからグループワークの場合も、その次ぐらいのレベルの人でどう、ある程度の品質を保つか。

畔見●うん、単独でクリアできるレベルの人が欲しいんだけど、難しい。せめて、続けてやってくれる人、仕様書を読めたり、こっちが一回言うとわかってくれる理解力のある人が欲しいんだけど、今はそれすら危うい状況なんですよね。こんなにいっぱい仕事があるのに、人が定着しない。本当に人材確保が悩みのタネですね。

報告・連絡は大事、品質はもっと大事

廿:アンケートを入力して集計レポートを作るっていう仕事もしてるんですけど、レポートのフォーマットを使い回してると、計算式を前回から直すのを忘れてトータルが100%になってないとか(笑)。お客さんから電話がかかってきて、ホントに私ってばか!って思いながら…。

畔見●あの、私もそういうタイプです。

廿:本当? 畔見さんってすごく完璧型に思えるじゃないですか。

畔見●えー?

廿:この前お願いしたときだって、きちっとした連絡メールが来て、きちっとした報告メールが来て、完全なデータが納品されてきたでしょう。

畔見●きちっとした完璧型? まあ、そう思っていただければ(笑)。

廿:それはやっぱり長年の習慣から来るものなんですか?

畔見●そうですね。受領連絡とか報告とかをちゃんとやらないと、やっぱり信頼度がそこで落ちちゃうから、納品データにポカをやったら許されなくなっちゃうでしょ。そうやってきちんと要所要所を押さえることによって、納品データに例えば1、2個ミスが発見されても、「いや、大丈夫ですよ」って言ってもらえる環境づくり!みたいな(笑)。

廿:わかった、そこがこの仕事のポイントなんだ(笑)。そこをやらないで、いきなりずさんなデータを送るから相手が怒っちゃう。

畔見●依頼したメンバーさんから途中で全然連絡も質問もないときって、「大丈夫かな、どうしてるんだろう、どうしてるんだろう」って不安に感じますよね。仕上がりが素晴らしいデータでも、またその人にお願いしたいっていう優先順位は下がっちゃいますよね。

廿:そうですよね。「素晴らしいデータに見えるけど、まさか意外なところでポカはないでしょうねえ?」みたいな。私って性格悪いと思いながらね。

いつもの人にいつもの仕事を頼むときは、原稿受領の報告をもらうぐらいでOK。心配しちゃうのはそれ以外の場合だ。(1)いつもと違う人に仕事を頼むとき、(2)いつもの人に違う仕事を頼むとき。

畔見●だけど逆に、連絡をすごくこまめにしてくれて、「しっかりしてる人!」と思ったのに、納品データが漢字ミスだらけだったことありますよ。考えられないんだけど、例えば住所の「第一××ビル」とかの「第」が「弟」で入ってるんです、全部。

廿:「おとうと」?「弟一××ビル」…。

畔見●「だい」で変換して「弟」って、変換候補としてかなり下のほうにあるんですよ。嫌がらせだろうか(笑)。それに普通、「だいいち」で変換すると思うのに。しかもその人の入力は、「富士見ビル」が「不死身ビル」。

廿:つ、強そう…。

原稿チェックをお願いしたとき、「もちろん、ノーミスでなければいくら丁寧でも信頼がなくなってしまうという気持ちで作業はしていますけれど」という追加コメントが届いた。
そうだ、私も追加しておこう。計算式が間違ってOKとは思ってない…そこが違ってたら集計レポートとして意味ないもの。文字ミスよりはるかに罪が重い。

「PTAうつ」はミスでわかる

廿:畔見さんのところはお子さんはいらっしゃらないんですか。

畔見●いないです、ダンナと2人。でもお願いしてる方はお子さんがいらっしゃる方ばかりだから、自分が子供がいないだけになおさら配慮しなきゃと思ってるんです。それに、昔は自分自身が子供だったわけだから、それなりにわかるとは思ってます。

廿:そうですね、私も実際にやってみて初めてわかったのは、PTAの重苦しさぐらいかな。PTAの役員って、誰も好きでやってはいない。たいがいの人がしぶしぶで、どうかするとクジ引きで無理やり押しつけられたりしてるのに、いざ集まると、子供のためにものすごく頑張らなきゃって雰囲気になっちゃうんですよ。わざわざ仕事を増やしちゃったりしてね。

畔見●不思議な空間なんですねー。子供が小学校に入って役員になったらうつ状態になっちゃう人、いますね。データ入力をお願いしてると、ミスでそれがわかってくる。

廿:怖いな。

畔見●ミスが増えてくると、精神状態が普通じゃないんだなとわかるんですよ。いつもならここでこういう入力じゃないのに、って人がミスをして。「じゃあ、分納することによって納期を長く取りましょうか」って対応して、それでもだめだったら「数量を減らしましょうか」。それでもだめだったら、「ちょっとお休みしますか?」って。役員のお仕事が落ち着いたら、また声をかけたりしてます。

廿:うん、無理にやってもらってもデータが危ないとね…。

ここで私がわけのわからないことを発言しているので、カット。他人の発言をテープ起こししてるときなら「何が言いたいのよ!」とパソコンの前で突っ込むような、わけのわからなさだ。
要約すると、「在宅ワークといえども、仕事をするなら仕事に対してプロ意識を持たなきゃいけないと世間では言われているけれども、子供を持った以上子供の環境への配慮がすべてに優先するって圧力も強くて、母親がそのバランスを取るのはとっても難しくて、PTA役員は一度なったら1年間逃げられないから、仕事のほうをセーブせざるをえないし、そのことにグループリーダーが配慮するのはやっかいだけど避けられない」という…全然要約になってない、相変わらずごちゃごちゃだ。

おっくうがらずに電話をしなきゃね

畔見●昔私が入力を始めた頃は、例えば「住所、氏名、年齢、性別、希望する賞品」みたいな項目のアンケート入力を、1日1,000件入力して校正かける、それを必死にやれてた時代があるんですよ。

廿:わあ、すごい馬力。

畔見●でも、今それを求めたら絶対無理じゃないですか。1日2時間3時間しか時間取れませんって人がざらなので、本当に納期が短いものは自分でやるしかなくなってきちゃって。

廿:そう、私も納期が短くて仕様が面倒くさいものは、自分でやる。

畔見●この間ご紹介いただいたデータ入力の仕事も、あれだけ長い納期なのに、やるって手を挙げてくれた人があんまりいなかった状態なんです。でも電話してお話ししたら受けてくれたりとか。

廿:電話しなきゃだめなんでしょうね。入力会社に勤めてたときはそうしてたんですよ。「そこをなんとか、あと100件お願いできません? 今すごく仕事が込んでて、どうしても誰かにお願いしないとだめなんですけどぉ」

畔見●そうするとだいたいみんな「あ、じゃあやります」って言ってくれるじゃないですか。募集メールの文章だけだと、本当に来ないんですよね。

廿:誰かやってくれるだろう、みたいな。おかしなもので、頼られるとうれしいんですよ。

畔見●そうかもしれない。電話かかってきて「お願いしますー」と言われたら、私も断れない(笑)。そこがメールと違うところですよね。

廿:だから、相手が遠方だからとか言わないで電話しなきゃだめだと、本当に思うんだけど。私はどうも電話かけるのは苦手。

畔見●私も苦手なんです。どもっちゃって。

廿:「四月堂の山岸と申します。お世話になっております」っていう決まり文句を言うだけで、もつれる。

畔見●そこを言い切ったとしても、そのあとの内容が「あ、う、なんだっけー」に(笑)。

廿:(無言で共感…)

それにしても、1日1,000件こなしてきた畔見さんだから生き残ってきたわけで、昔も「1日2、3時間しかやれない、やりたくない」「時間はあるけど大した量はこなせない」人は多かった。
もちろん入力精度とスピードがあれば2時間でも他人の4時間分打つことは可能だけど、その能力を身につけるには「無理にでも数をこなす」経験が必要だろうと思う。

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簿記も合わない、事務も合わない

廿:畔見さんは高校出てすぐ入力会社に入られたんですよね。高校は?

畔見●商業高校。簿記とかももちろんやったんだけど、私は「あ、簿記は自分に合わない」と思ったんですよ。
実践として、3人グループになって1つの会社を経営するっていう授業もあったんです。株もやって、ほかのグループと取引して、営業日誌もつける。1つのクラスだと顔を合わせてる生徒ばかりだから2クラス合同で、全然知らない人と話をしなきゃいけない。でもそれをやってみて「あ、事務も合わない」と(笑)。「もう、データ入力だ!」

廿:高校の時に自分の進路がちゃんとわかってる人って、あんまりいないですよ。

畔見●高校に入って、みんなは「さあ、バイトするぞ!」みたいな意欲的な感じなんだけど、私は「どうせ将来は絶対仕事しなきゃいけないのに、なんで今バイトなんかしなきゃいけないのー? 私は遊ぶから」みたいな。部活も入ってなくて、帰宅部。

廿:畔見さんって、あのきちっとしたメールの感じからはかなり遠い…。こういう人でも鍛えればここまできちっとなりますっていう見本?(笑)

畔見●そうなんですよ!

廿:勤めた入力会社ってどういう…大きい会社?

畔見●小さい会社で、でもやめちゃう人数も少なかったのかな。就職するとき、先生にそこを見ろって言われたんです。「業績も大事だけど、年間何人やめてるかっていう情報を見ろ。多くやめてる会社はそれだけ過酷だったり、いろいろ問題をかかえているから」

廿:なるほどー。

畔見●その入力会社は官庁関係の仕事を受注していて、つぶれることはなさそうだとも言われて。入力分室みたいなところが新宿にあってそこに勤めてました。上の人が数人、あとは20人ぐらい女ばかりのキーパンチャー。

廿:そこには何年ぐらい?

畔見●6年半ぐらい勤めてました。2年目ぐらいでグループリーダー…仕様書書いたり指導したりって役についちゃって。

廿:早い!

畔見●だから反発がすごかったですよ。なんであんたに従わなきゃいけないの!って。

廿:やっぱりもともとリーダータイプなんですね。

仕様書を書く、理解してもらう

廿:はたちになるかならないぐらいからリーダーだと、仕様書を書くのも年季が入ってるんですね。

畔見●でも最初は全然わからないから、型にはまったものを書くじゃないですか。そうすると、その仕様書で理解できる人とできない人がいるんですよ。
「あ、この人にはこういう言い方をしなきゃいけないんだ」「あの人にはああいうやり方をしなきゃいけないんだ」って、女性ばかり20人もいたから、すごい勉強になったんです。だから、今でもデータ入力をグループとしてやれているのかなと思って。

廿:その経験って勉強になりますよね。
私は、入力会社のパートが2年半ぐらい、短い期間なんですよ。1人目が1歳半になったとき保育園に預けて勤めて、2人目を産むとき辞めたから。パソコンできますって言って入ったんだけど本当は何も知らない、拡張子も知らなくて、そこに入って教わったんだから、在宅さんを指導しろって言われたって何もわからないんだけど。でも、在宅の入力者が多いときで50人ぐらいいて、その人たちに仕事出すのをチーフと2人で担当してたから経験にはなりましたね。

畔見●2人で50人? すごい(笑)。

廿:じかに入力者と顔を合わせて仕事をする経験ってすごく大事。それを経験しなかった人が、データ入力でグループリーダーになるのって、結構難しいと思うんですよ。

畔見●相当ストレスたまりますからね、人への対応っていうのは。

廿:そうですよね。それといつも思うのが、入力をしてくれる人に、「経験がない」とか「応用力がない」って文句を言っても、その経験を積んでもらう場所っていうのが…。

畔見●うん、なくなっちゃってる。

廿:直接顔を合わせて指導を受けるとか、同じ職場でほかの人はこんなにできるんだと見ることができる、そういう場所が今なかなかない。難しいですよね。

畔見さんが勤めていた会社の厳しーい評価システムを聞いたんだけど、そのときICレコーダーのスイッチを入れてなかった…。入力のプロとしてやっていくためには、本当はこういう環境で鍛えられなきゃだめなんだと、実感するようなシステムでした。
畔見さん、あらためてちょっと書いてもらえますか。

はい、畔見です。
会社時代はもう全て能力でした。高卒で基本給が8万であとは能力給。だから毎日キチンとパンチ数・ミス個数を管理されていたんです。毎日、統計が出てくる。それには一日の総合計と、業務ごとに分けられた管理表がオフィスコンピュータ(オフコン)管理されていて出てきます。速く入力しても、ミスが多いとそれは能力としては劣ると判断されてしまうわけなんです。
ミスタッチせずにスピードも速い…それが能力給をあげる全て。毎日統計されたそれらの管理表は1ヶ月ごとにも出され、ボーナスや昇級の時の査定にひびきます。かなり怖いです。
ミスを気にするとスピードは落ちますから。それじゃあどうするか…というと、運指…指の運びをキチンと正確に把握することしかないんです。指がキーボードを正確に速くとらえれば能力も、ミス個数も超越できる…そんな世界でした。

会社員から自営業へ

廿:結婚後、家で始められたのはいつですか?

畔見●会社ではオフコンを使ってたから、パソコンのパの字も知らなかったんです。MOTを取ってインストラクターになろうと思って、95年ぐらいかな、1年かけて取ったんです。でも、取れたころにはもうMOTを取った人が大勢いて、仕事につながらなくて。どうしようかと思ってたら、一緒に試験受けた人が在宅でデータ処理をしてた人で、「教えるから」って仕事を紹介してくれたんです。それと、そのころはニフティのパソコン通信が全盛期で…。

廿:ってことは、在宅ワーキングフォーラムが全盛期!

畔見●そう。フォーラムで、仕事やりますってPRを出しておいたら、最初のクライアントがついた。大手の会社の人でたくさん仕事を出してくれました。

廿:上々の滑り出しだったんですね。

畔見●あそこで縁が縁を呼んで、評判で横つながりで、紹介があって、どんどん仕事が増えていって。一緒に仕事をする人にも出会えたし、在宅ワーキングフォーラムさまさまです。

廿:あそこで実績を上げた人が、ちゃんと1人いたか…(笑)。当時の私は、入力会社に勤める前だったからド素人。PRの文章にも、そのド素人感が出ちゃうんですよ。

畔見●そういうものですか??

廿:そうだと思う。あのころまだ、簡単な入力の仕事がいっぱいあったでしょう。もちろんしょっちゅう応募するんですよ。でも一回も採用されたことなかった。ちょうど在宅ワークブームだったから、私みたいな未経験の主婦が大勢、入力を志望してた時代ですよね。

畔見●私もその一人です。

廿:いや、その前の経験が全然違うから。

畔見●でも自営ってなるとまた別じゃないですか。どうアピールしていいかわからない。最初のクライアントのときは直接電話がかってきてもうドギマギ、1文字1.2円で入力って考えてたのに、いくらですかって聞かれたとき「い、1円です」って、0.2円弱気になっちゃった(笑)。でも、つい去年までずっと継続して仕事を出してくれてました。

廿:えー? あのころ、0.45希望って書いてたんだけど、誰も出してくれなかった。

畔見●安すぎたんですよ。

廿:そんなことはないですよ。「もっと安い人がいたので今回はお断りします」って書いてあったもん。

つまり、問題はそこだ。アピールに「ド素人感」が出てしまうと買いたたかれる。もっと安い人がいるならそっちに出すのは当然だ。
経験なしに「プロフェッショナル感」を出すのは無理で、プロフェッショナル感を出すにはそれ以前の徹底した経験と、それに基づく実力が必要。いわゆる「主婦の在宅ワーク」には、この認識が欠けている。「PRにどんな文章を書くか」という小手先の技巧ではない。
当時の私はそのことに気づいていなかった。入力は好きだし、仕事はたくさんあるというから大丈夫だろうと、のんきに思っていた。1995年時点ですでに「会社員と自営の違い」という意識に到達していた畔見さんとの差は大きい。

遊べない、寝られない

廿:人に頼むようになったのはいつですか?

畔見●いつだろう。そのあと入力グループに所属してたんだけど、その代表がいきなりやめちゃった。「やれない」って。いろいろごたごたがあって。

廿:グループワークは必ずごたごたする(笑)。

畔見●そう。それで、サブリーダーをしてた人と私が、「じゃあ2人でオフィスをやろうか」って新しく始めて、そのときから人に出すようになった。8年ぐらい前ですね。途中で有限会社にしたんだけど、去年その会社を解散して1人で再出発。
そうやって形が変わっていく間にも、最初のグループで一緒だった人たちにずっと仕事してもらってたんだけど、その長い人が2人、この間やめちゃったんですよ。

廿:パートに出ちゃったって感じ?

畔見●そうなんです。1人やめ翌月また1人やめ、ってときは、その月ごとに涙にくれながら、「どうしよう、仕事…。もう私もやめちゃおうかなあ」、そう思ってたら、クライアントが察したのか続々と仕事を出してくれる。…やめられない。

廿:察してるんですよ(笑)。だけど、やめるのも難しいですよね。

畔見●体力的な問題とか親の問題も出てくるだろうから、いつまでできるかわからないんだけど、依頼されればやりたいと思う。「あなたの所はいらないよ」って言われるまでやるんだろうなあ。

廿:結局はそうなるんだなあ。

畔見●去年は1人で新オフィスを始めた最初の年だったんですけど、細木数子さんの本に「4月は仕事がなくなるでしょう」って書いてあって、半ば楽しみにしてたのに(笑)、全然。

廿:増える一方。

畔見●遊べない、寝られない。でも今は、やめる人がやめて新しい人が入ってきて、それなりに落ち着いたから新規開拓しようかなあと。でも新規開拓したあとで、またメンバーがやめたらどうしようって不安もありますよね。

廿:それは本当に怖い。私もあるクライアントに、今年は発注量が増えるって予告されてて、お願いする人増やさなきゃだめかなと思って。

畔見●メンバーを増やしてしまうより、横つながりを持ったほうが臨機応変でいいのかなと思うこともあるんですよ。でも、「信頼できる!」ってグループはもう仕事があふれてるからだめなんですよね。

メンバーは不満も持っているがテキトーでもある

廿:私がテープ起こしをお願いしてる人の1人が、テープ起こしの会社にも登録していて、かなり長くそこで仕事してるんですよ。その彼女がもらってる現在の単価が、音声1時間で×円なんですって。

畔見●えええーっ。それは安すぎる。

廿:たぶんその会社の論理としては、「慣れない人は1週間で1時間しか起こせない、彼女は週4時間起こせる、だから1カ月の収入は不慣れな人の4倍、だからOK!」っていうイメージなんでしょうね。その人の評価って意味では、そんなに単純な掛け算でいいのか、単価自体上げてあげたらと思うんだけど。

この方はすごーく素晴らしい仕事をしてくださるので、私がお支払いしてる単価はその会社の1.5倍ぐらい。

畔見●ちょっとでも単価を上げてくれるとか、そういう形で評価をもらうとうれしいですからね。
でも、どういう基準でメンバーさんが仕事を引き受けるのか、わからない部分がある。本当に単価で選んでるのかなあ。そこそこ市場価格よりいい単価で出してるのに「やりませーん」と言われちゃうと、「えっ、在宅の仕事希望してるんじゃないの?」と思うんですよ。何の条件が合わないんだろう。

廿:何の条件が合わないんでしょうね、それって。

畔見●有限会社をやってたときも、「仕事をしたい、在宅でデータ入力をしたい」って登録に来る人、面接までして本人が納得して登録しているはずなのに、仕事の情報を流すと全然応募がないときが…。

廿:それ、よく聞きます。本当にやる気があって登録してるのかって感じですよね。リーダーにいくらやる気があっても、誰も応募してくれないと結局仕事はできないし。
私は入力講座をやってたせいで、人から相談を受けることが多かったんだけど、私が知ってるだけでもいくつかのグループが空中分解してます。両方で不信感なんですよね。メンバーは何かリーダーに不信感があるんですよ。それとも、何か夢のようなことを考えてるのかな。単価的には不満はないはずの仕事でも…。あとは何をしてほしいのか。

畔見●あとは何を、そこがわからないと、歩み寄れないんですよね…。

廿:仕事が土日にかからないでほしい、とかかな。

畔見●そういう面か…。あんまり厳しいことを言わないでほしいとかなのかな。

対談時には「メンバーの、リーダーに対する不満や不信感」について2人で頭を悩ませていたけど、応募がないという現象には違う原因もあることにあとで気づいた。

「本当にやる気があって登録してるのか」なんて言っている当の私も、何年も前に登録して一度も仕事情報に応募したことない会社がある。
直請けのお客さんが増えて応募の必要がなくなったのに、「登録を解除しますか?」と聞かれないのでそのままにしているのだ。「登録者○名!」という数字をPRに使うから多いほうがいいのか、一人一人に意向を確かめてデータを削除したりする手間をかけてはいられないということなのか。
別の会社は、打診された仕事を何回か続けて断ったらあらためて意向を確認するメールが来た。お詫びして登録の解除を依頼したら、「とりあえず解除したけど、また都合がついたらいつでも言ってください」という内容の丁重なメールが来て恐縮した。

基本的には、「ちっとも手を挙げない登録者」に対しては、いつまでも名簿に載せておかず意向を確認して整理するのがいいだろうと思う。登録する側というのは私自身も含め結構テキトーで、あっちこっちに登録してたまたまタイミングの合う仕事をしているような面が確かにあるから。

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仕様書にどこまで書くか

畔見●メンバーの希望って、例えば仕様書の書き方とかかな。

廿:仕様書?

畔見●仕様書の受け取り方って人によって違うなと思った一件があったんですよ。すごく細かく書いてほしいっていう人もいれば、そんなに細かく書かれたらわからないっていう人もいて。

廿:うう…。そんなこと言われたって。

畔見●MLで質疑応答をやってるんです。私は質問されたことに対して、もちろん答えも書くけれども、「それはこういう状況になっているから、こうなるんですよ」という説明も書いてたんですね。

廿:はい、それはいいですね。

畔見●そうしておけば応用もできるじゃないですか。ところが「それがうざったい」って言われたことがあるんですよ。質疑応答だから、質問に対して、できる・できないとか、そうです・違いますとか、それだけでいいのに、なんであんなにいっぱい書くんですか、それが混乱のもとじゃないですか!って怒られちゃって。

廿:大変ですねー。でも、好みの問題ではあるけれども、背景がわかるほうがいいですよねえ。

畔見●私もそう思うんだけど…細かすぎたのかな。その方は、プロ級でやってらっしゃるかたで、自分のメインのクライアントはイエス・ノーって短くはっきり言ってくれるからわかりやすいって。本当に人を使うのって難しい。

廿:応募人数の多い時代だったら、「これがうちのやり方なんで、よそを探してください」って言うことができたと思うんだけど、今となっては。

畔見●仕事はできるかただったんで、次にまた頼んだときはMLでなく個別に対応しました。まあ、それはそれで楽なんですよ。質問の返事には「やってください」「やらなくていいです」だけで。

あなたも文字入力で1週間6万円!

畔見●有限会社のとき、募集を出しても全然誰も応募がなかったことがあるんです。ベタ入力で1週間ぐらいの仕事で、1文字0.8円だったんですよ。いっぱい応募が来ると思って、わくわくして出したら、シーン…。いくらだったら受けてくれるのー?

廿:この前、お客さんから0.75で受けて、うっかり0.75で出しちゃった。でも、当てになる人だったから、再校正しないで納品した(笑)。そのぐらいだから、私、0.8だったらやる!

畔見●やりますよねえ。でもそのとき、電話をしたらやるって言ってくれた人がいて、かなりの分量をお願いしたんですよ。その人、1週間で6万円ぐらい稼いでましたね。

廿:ってことは、1週間で6万字以上打ったんだ! 偉いなあ。私、最近無理がきかなくなって、徹夜はできないし、昼間でも無理すると次の日疲れて続かない。

畔見●私も今は無理だけど、以前半年ぐらい、1日2時間睡眠でやってたことがありますよ。

廿:ぎえええ!

畔見●慣れちゃうんですよ。頼んでいる人の作業時間ってみんなまちまちで、朝型の人、昼間やる人、夜やる人がいるでしょう。全部の質問に即答してたら「畔見さん、いつ寝てるんですか」って聞かれました。

廿:私にはできない…。

畔見●でも半年後、その仕事が落ち着いたらガクッときちゃって、寝る寝る(笑)。爆睡。

廿:体のほうは、それを待ってたんですよ。

畔見●1日に何時間ぐらい仕事されてるんですか?

廿:全然してないですよ。お昼寝大好きだし。午前中やって、午後は昼寝をして、夕方ちょっとやって、夜もちょっとやる。だからやっても7~8時間ぐらいかな。畔見さんは12時間ぐらいやってるでしょう。

畔見●やってない、やってない。私も今は8時間ぐらいです。

今日のタイトルは、わざと悪徳商法みたいな雰囲気にしてみた。でも、いい仕事にめぐり会えば、そして本人の能力が高く作業時間も十分取れれば、週6万というのはそんなに無理な数字ではない。(こういうおいしい仕事は多くはないけどね…それにしても、どうしてそのとき全然応募がなかったんだろう)

葬式にも家出にも仕事がついてくる

畔見●つい最近、ダンナのおばあちゃんが亡くなって、2、3日行かなきゃいけなかったんです。で、向こうのホテルに仕事を持ってって、ダンナと2人で校正。

廿:能力の高いダンナさんでよかった(笑)。

畔見●しかもクライアントから「名刺の入力お願いしたいんですけど」って電話かかってきて、「…えっ、はい、わかりました」。

廿:そういうときに限って絶対仕事が来るんですよ。

畔見●こういう状況だから何日の何時まで不在ですって、メール連絡は入れてたんですよ。それを見ないで電話してきたみたいで、あとから謝られてしまいました。
結婚記念日でどこかに泊まりに行っても、必ず仕事持参なんですよー。豪華なホテルに泊まってるのに、原稿持参、パソコン持参、もう血相変えて。ルームサービスの人、「すごい修羅場だな、この部屋」って思ってるかも(笑)。

廿:私もね、去年の秋、長女の不登校のせいでちょっとうつ気味になって、家族公認で家出して鎌倉に1泊してきたんですよ。だけど、その直前に納品した集計データにミスがあったらしくて、鎌倉の海辺を歩いてるときクライアントから電話がかかってきた(笑)。

畔見●そんな、追い打ちをかけるような。

廿:しかも携帯にメール転送しておいたら、別のクライアントから「テープ起こしお願いします」ってメールが来た。せっかくの家出気分が…。

畔見●そういう運命なんですよね、お互いに。

廿:私、携帯メールで返事書くの大嫌いなのに! あのときの教訓っていうのは、携帯に接続するキーボードあるでしょう、畳んであって真ん中からパカッて開くの、あれを買うべきだということですね。「いつもお世話になっております」って書くぐらいでも、携帯って面倒くさい!

畔見●私、登録してあります。「携帯から失礼いたします」まで登録してある。

廿:携帯って単語登録できるんでしたっけ、ちょっと勉強しよう。それにね、私、家出はその一回であきらめました。

畔見さんのご主人は、「そんな人と、どうやって知り合ったんですか?」と質問してしまったほど、入力とは全然かけ離れた業界の人だ。にもかかわらず優秀な校正技術をお持ちで、しばしば畔見さんを手伝っているという。
ちなみに、畔見さんはメンバーから納品されたデータを全部、自分で再校正してからクライアントに納品している。これをやってるから、メンバーに対して正確なミス数を伝えられるわけだ。

データ入力はプチ稼ぎとパートの中間

廿:入力にしろテープ起こしにしろ、この仕事の志望者が在宅ワークブームのころみたいに増えるってことは、もうないと思うんですよ。いっぱい稼ぎたい人は外へ出るし、家にいてちょっとお金が欲しい人には、株式プチ投資とか懸賞応募とかがある。データ入力のライバルはテープ起こしじゃなくて、たぶんそういう「プチ稼ぎ」系なんです。

畔見●アフィリエイトとか。

廿:うん、アフィリエイトも、頑張れば月何万円かになりますから。

「月500円にもならない」という話も聞くけど、アフィリエイトにだってコツはある。でも案外労力がかかって、入力で稼いだほうが手っ取り早いのでやめた。

廿:それに今、パートの時給が上がってるでしょう。みんなちょっと無理してでもパートに行っちゃうだろうと思って。

畔見●行っちゃいますよね。この間、定期案件をやめた人の代わりにお願いした人も、前は在宅のみだったのに、今は週3日パートに出てるんです。それでもやってくれるって言ってくれてますけどね。でも、だから原点に戻っちゃうんですけど、初心者の人を育てるしかないんですね。

廿:うん。

畔見●ネットの掲示板とかで「初心者OKって書いてある会社とかは怪しい」っていう書き込みがあると、初心者の人が警戒しちゃって、なかなか来てくれなくなるから困るんですよ。こちらはいつでもウェルカム!なのに。

畔見さんは、意欲のある人には根気よく初歩から教える。ところが、ようやく戦力になるころに相手がやめてしまうことがある。相手にしてみれば、どんな仕事かよくわからず入ってきた(経験がないのだから当然だ)けど、わかってきたら自分の希望するような仕事ではなかった、ということなのだろう。
そんな「教え損」経験にぶつかりながらも、未経験者でも育てようと思っている畔見さんにとって、「初心者OKなどという会社は悪徳商法に決まっている」と決めつけるネット上の意見は本当に困るのだ。

廿:いつでもウェルカム!って言うと、「1カ月の最低保証額はないの?」とか聞かれません?

畔見●言われますね。有限会社のときは言われました。

廿:私も、それ言われたの入力会社のパートのときです。「会社」ってそういうイメージなんでしょうね。

畔見●有限会社にする前、在宅ワークグループをやってたとき、私すごい苦心して私いろいろ制度を作っていたんです。仕事を複数重なってやってくれた人にはボーナスをつけよう。3つ重なったら1カ月1,000円出します、4個重ねてくれればまた1,500円つけますってしたんですよ。…でも、誰もやってくれませんでした。

廿:なぜだろう。そういう無理をするぐらいだったら、もうちょっと無理してパートに出たほうがましってこと? それとも、それに耐えられる人は、そもそもグループリーダーになっちゃうのかな。

畔見●そうか、独立しちゃってるんだ。

実力がありながら独立を目指さない人というのは、仕事一つずつを落ち着いて丁寧に仕上げたいタイプが多い。そんな人にとって、「こっちもお願い」「あ、その仕事よりこれを先に片付けて」「でもそっちも急いで」とせかされることは、たとえ割増料金があっても嫌なのは当然かもしれない。

どかどか重なった仕事をこなすには

畔見●データ入力の会社にいたときに、いっぱい来る仕事の流れ作業的なスケジュールを組んで、みんなに「じゃあ、これやって」っていう管理をしてたんです。だから私、結構仕事の組み立てはできる、パンパンと詰めて時間を作ってやれるらしいんです。時間っていうのはパズルみたいなもので、うまく合致すると全部が埋まる。ちょっとずれちゃうと完成しないでしょう。

廿:なるほどー!

畔見●日にちや時間ってみんな平等に持ってるようだけど、それを工夫して、「カレンダーにない1日」を作り出せば伸びるんです。例えばメンバーに分割納品してもらえば、全部いっぺんにまとめてやってもらうよりも、自分が早く検収に入れるから、1日多くあるような感覚になるんですよね。

廿:それとはちょっと違うけど、入力会社にいたとき、ホワイトボードに在宅さんの名前が一覧表になってて、今誰に何が出してあるか書いてあるんです。忙しいときは全員に仕事が出てるし、優秀なメンバーには一度に2つの仕事が出てたりする。だから営業さんは新規案件の電話を受けたとき、ボード見て「どうする? 断る?」って言うんだけど、チーフは「大丈夫です、なんとかします。受けてください!」って。

畔見●すごい。

廿:それで、本当になんとかしちゃうんです。ホワイトボード見て「ああ、この人もう終わってるよ。ちょっと電話してみる」って。納期が何月何日ということにはおかまいなく電話して、「あと1件入らない? 今日何時ごろ終わる? じゃあ取りに来てね。お願い、あなたが頼りだから」。この気迫ですよ、大事なのは。

畔見●たしかに…(笑)。管理者がてきぱきしてくれると、ついていけばいいって安心感がありますよね。

廿:そう。だから覚えますよね。これほど入ってるのに、まだ入れられるものなんだ!って。私なんか、単純に「この人にはこの納期で出してあるから」って引っ込んじゃうんだけど。

畔見●でも、今の作業者ってギリギリまで納期あげると本当にそのペースでやるから。終わってるかなと思うと「まだやってます」。

廿:私も最近取りかかりが遅いから、耳が痛い。

「忙しい、もうこれ以上仕事は入れられない」と思ったとき、まだ入れる方法2種類。きっちり組み上げる畔見さん方式と、強引に押し込むチーフ方式。

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畔見さん4

できると言ったからにはやってもらいます

廿:「1日5時間仕事できる人」とか、まあどこでもそういう条件で募集するでしょう。普通はそのあとそれが徹底しないんだけど、私がいた会社は、「1日5時間できるって前提で頼んだのに、あなた何時間仕事しましたか」って。

畔見●えええっ。怖くて、次から詰めて詰めて仕事するかも。

廿:伝票に作業時間を書いてもらうんだけれども、13時間ぐらいしか作業をしてなくて5日で持ってくると、「あと2日早く出せたよね?」って、チーフがニコニコッとして。減額しますとかいう会社の体制じゃないんで、ただニコニコッとして、「あと2日早く、出せた、よね?」って言うのがあの会社のミソなんです。にこやかに鬼のようなことを言う。

入力者は、5時間作業できない日(←平日の場合)があればあらかじめ届けておくことになっていた。逆に、1日5時間やっても納期までに終わらない量を出してしまったら、出す側の失敗と見なされる。社内スタッフは在宅さん一人一人のスピードを把握しておく必要がある。

畔見●今、耐えられる人いないですよ、きっと。

廿:ねえ。でもまだやってるから、なんとかなってるんでしょう。面白いやり方なんだけど、私はそこまではとてもできない。

畔見●自分はそれでやるとしても、相手には強制できないなあ。

廿:顔を合わせるからできるんです。その会社は、受け取り・納品に出社するから。メールでそれをやったらキツすぎるだろうと思うんですよ。電話でも、たぶんできない。

畔見●相手の顔が見えない状況で言うのは無理ですよ。

廿:そう。相手を見てれば、この人にはこれ以上無理かなってわかる。やってくれる人に頼るから、忙しい人はますます忙しくなるんだけど。

畔見●「今やってもらってるけど、なんとか詰めてこれもやってもらえませんか、こっち優先で」って言うと、頑張って早めに終わらせてくれる人。

廿:そういう人をうまく使うって感じですよね。そうじゃない人にそれを言うと、やめちゃうでしょう。

畔見●そのギリギリが難しくて。受けてくれるから頼んでると、やめちゃうとか。

廿:無理って言えなかったんだ…。

これは特に悲劇的なケース。私も社内スタッフ時代にこの失敗をしたことがあるから、むなしさと後悔はよくわかる。無理なら断ってくれていい、長くやってくれるほうがずっとありがたいのだ。

納品データに対する支払いと、苦労に対するお礼

廿:入力会社のチーフが言ってたのは、1年の最後に来てもらうときはキャラメル1個でもあげなきゃだめだって。50円のキャラメル1個でも人の気持ちは違う、苦労をかけてるんだから、その程度は気を使うべきだって。だけど専務は「しかるべき入力料は払ってる」って却下。まあ、日本の景気が一番悪いころで、会社も苦しかったから無理ないんだけど。
気持ちの部分は、これから人数が少なくなる中ですごく考えなきゃいけないと思うんですよ。

畔見●私、グッズを作って、あげたりしてます。

廿:あのカッコいい電卓ね。

畔見●いつも作業してくださるメンバーのかたたちがいなければ成り立たないから、面白グッズとかで、「ありがとうございます、これからもよろしくね」って。「やめないでね!」って念を込めて(笑)。

廿:一生懸命ピピピッと。

畔見●それなのに2人やめちゃったー。

廿:それはね、念を込めすぎて温度が熱すぎた。

畔見●そっか。

廿:面白グッズってどんなものですか?

畔見●この前は電卓でしょ。あと、うちわとか。やめた2人には、ずっとつき合いがあったんで登録解除の日に合わせてお花贈ったんですよ。そしたら2人とも「これまでの自分が認められたみたいで、すごくうれしかった」って。

廿:そうか、大事だな。前向きに考えよう。キャラメル1個でもなんでもいいから贈ろうかな。

畔見●ホントに1個だけとか(笑)。

廿:1箱じゃなくて1粒?

畔見●でも、かわいくラッピングすれば!

廿:ラッピング代のほうがかかるからヤだ!

畔見●100円ショップで売ってるから、今は!

廿:私、ラッピングへただから!

畔見●やりに行きますよ!

廿:作業代払えない!

畔見●年末でいいから!

廿:そういう問題では…。

とはいえ、お歳暮の件は決めかねている。相手が「お返しはどうしよう」と気を使うようでもよくないし。本当にキャラメル1箱なら気持ちの負担にはならないけど、送料のほうが高いのもねえ…。

顔合わせもイヤ、勉強会もイヤ

畔見●私、面白いことして人が驚くの大好き。

廿:畔見さんから仕事もらってる人、もし「畔見さんって厳しい…」って思ってたら、こんなところ見たらぶっ飛ぶかもしれない。

畔見●実際、セミナーとかやったとき「畔見さんって、そんな人なんですねー! もっと怖いと思いました」って言われました(笑)。

廿:高校卒業以来のキビしい環境が影響したんですね。うちは社長が超・温情主義で、おかげで会社はいつも火の車だったけど。

畔見●横つながりの話なんですけど、自分がいつも関わっている作業者に例えばセミナーとかオフ会をやりましょうって言ったとき、すぐ出てきてくれる人ばっかりですか?

廿:私が仕事頼んでるのは遠方の人が多いんですよ。だから一度も会ったことない人、結構います。私の場合、そうじゃない横つながり、仕事がからまない人とお友だち感覚で会うことが多いかな。
よくグループリーダーの人に聞くのは、一度グループの顔合わせをしたいんだけど、みんながなんだかんだ都合を言って出てきてくれないって。

畔見●有限会社時代、校正セミナーを2回やったんですよ。ミスをつぶすには校正だ!っていうセミナーを東京と大阪でやったんです。

廿:結構来るものですか?

畔見●そんなには来ないですね。

廿:メンバーの人でも?

畔見●うん。

廿:メンバーの人にしてみれば、家でできるからこそこの仕事がやりたい、半日といえども外に行くなんて。しかもそれに出たからってお金をくれるわけでもない、ってことなのかな。

私が今、コンビニのパートを始めるとする。そして店長に「今度の日曜、都心で接客セミナーが開催されるよ」と勧められたら、参加するだろうか。
交通費払って、会費取られて、時間を取られて。将来コンビニのオーナーになりたいわけでもないし、コンビニのパートとしてスキルアップしても何がどうなるという展望も持てない。仕事に必要なことは店長が仕事時間内に教えてくれればいい。自由参加なら出たくないし、業務命令での参加なら日当と交通費は出してもらいたい。そう感じるだろう。
だから、勉強会はおろかグループの顔合わせさえおっくうがる人の気持ちも理解できる。

畔見●そうか…。でも今、SOHOWORKネットさんの主宰者が変わられて、セミナーがなくなったじゃないですか。あのセミナーも交流の場になってたんで、淋しいですよね。

廿:そうなんですよね。何かやります?

こうして、データ入力系オフ会の話で始まった対談は、またその話で終わった。

対談を終えて

(畔見さんよりメッセージをいただきました)

ずっと待ち望んでいた廿さんとの対談が出来ました。それもとてもグッドなタイミングで。色々と話したくて仕方なかったので、廿さんにメールして時間をあけてもらうぞ!っていう時に廿さんのほうからお電話いただけたのは、これから先も忘れないと思います。

お話しさせていただいて、もうスッキリ、リフレッシュです。自分だけじゃないんだっていう事もそうでしたが、廿さんのお話を聞くことによって少しやり方を変えてみようかな…とか、こういう考え方もあるんだ…とか、学べた部分がすごくありました。

オフ会とかセミナーとかぜひぜひやりたいですね! これからもお時間ありましたらお話させてください。最後に、この対談を読んで興味を持たれたり、自分の仕事について考えたりしてくださる方がいらっしゃれば幸いです。 (畔見 知子)

対談を終えて2

 畔見さん・私それぞれが仕事をお願いしている人や過去にお願いしたことのある人が、この対談を読んでどう思うだろうと、本当は心配している。2人とも結構率直に語っているから、不快に感じる人もいるような気がする。
 在宅ワークは直接顔を合わせないことが多いため、普通の人間関係より難しい。どの入力グループに所属していても、誰から仕事を受注していても、たぶん不満や不信感を持つことになる。と思います、すみません、関係者の皆様。

 単価の話も、バリバリと具体的な金額を挙げている。普通こういう話って適当にぼかすものだけど、原稿チェックの段階で畔見さんからストップがかからなかったので、そのままにした。
 安いという話ばかりが広まると、データ入力の人気はますます下がる。あえて具体的な金額を出し、ちゃんとした収入になる仕事だってあるんだ!とアピールしたいという気持ちが、畔見さんと私の間で一致したのだと思う。

 家で仕事しているとたまには人としゃべりたくなるもので、対談の当日は3時間ぐらいしゃべりまくった。私に当日納品の仕事がなければ、もっとしゃべっていたに違いない。
 録音したのは2時間40分、できるだけカットせずに話の内容を全部拾いたかったけど、前後の話の流れにうまくはまらない部分など結局1時間分近く削った。
 しかも、会話というのは、当事者同士には通じても読み直すと他人にはわかりにくい表現が多い。読んでわかる程度には整えなければいけないから、爆笑対談!という当日の感じはだいぶ消えてしまって残念。

 対談は、新宿高島屋内の「健美菜館 麗花仙」という中華のお店にて。おいしかった。

 というわけで、5月号は今日が最終回。畔見さん、本当にありがとうございました。

 それにしても、もう対談に応じてくれる人がいなかったらどうしよう。こんなにぶっちゃけてしゃべるのは…と、警戒されそうだ。あのー、お話のトーンはいろいろで結構ですので…。

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