簿記も合わない、事務も合わない

廿:畔見さんは高校出てすぐ入力会社に入られたんですよね。高校は?

畔見●商業高校。簿記とかももちろんやったんだけど、私は「あ、簿記は自分に合わない」と思ったんですよ。
実践として、3人グループになって1つの会社を経営するっていう授業もあったんです。株もやって、ほかのグループと取引して、営業日誌もつける。1つのクラスだと顔を合わせてる生徒ばかりだから2クラス合同で、全然知らない人と話をしなきゃいけない。でもそれをやってみて「あ、事務も合わない」と(笑)。「もう、データ入力だ!」

廿:高校の時に自分の進路がちゃんとわかってる人って、あんまりいないですよ。

畔見●高校に入って、みんなは「さあ、バイトするぞ!」みたいな意欲的な感じなんだけど、私は「どうせ将来は絶対仕事しなきゃいけないのに、なんで今バイトなんかしなきゃいけないのー? 私は遊ぶから」みたいな。部活も入ってなくて、帰宅部。

廿:畔見さんって、あのきちっとしたメールの感じからはかなり遠い…。こういう人でも鍛えればここまできちっとなりますっていう見本?(笑)

畔見●そうなんですよ!

廿:勤めた入力会社ってどういう…大きい会社?

畔見●小さい会社で、でもやめちゃう人数も少なかったのかな。就職するとき、先生にそこを見ろって言われたんです。「業績も大事だけど、年間何人やめてるかっていう情報を見ろ。多くやめてる会社はそれだけ過酷だったり、いろいろ問題をかかえているから」

廿:なるほどー。

畔見●その入力会社は官庁関係の仕事を受注していて、つぶれることはなさそうだとも言われて。入力分室みたいなところが新宿にあってそこに勤めてました。上の人が数人、あとは20人ぐらい女ばかりのキーパンチャー。

廿:そこには何年ぐらい?

畔見●6年半ぐらい勤めてました。2年目ぐらいでグループリーダー…仕様書書いたり指導したりって役についちゃって。

廿:早い!

畔見●だから反発がすごかったですよ。なんであんたに従わなきゃいけないの!って。

廿:やっぱりもともとリーダータイプなんですね。

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仕様書を書く、理解してもらう

廿:はたちになるかならないぐらいからリーダーだと、仕様書を書くのも年季が入ってるんですね。

畔見●でも最初は全然わからないから、型にはまったものを書くじゃないですか。そうすると、その仕様書で理解できる人とできない人がいるんですよ。
「あ、この人にはこういう言い方をしなきゃいけないんだ」「あの人にはああいうやり方をしなきゃいけないんだ」って、女性ばかり20人もいたから、すごい勉強になったんです。だから、今でもデータ入力をグループとしてやれているのかなと思って。

廿:その経験って勉強になりますよね。
私は、入力会社のパートが2年半ぐらい、短い期間なんですよ。1人目が1歳半になったとき保育園に預けて勤めて、2人目を産むとき辞めたから。パソコンできますって言って入ったんだけど本当は何も知らない、拡張子も知らなくて、そこに入って教わったんだから、在宅さんを指導しろって言われたって何もわからないんだけど。でも、在宅の入力者が多いときで50人ぐらいいて、その人たちに仕事出すのをチーフと2人で担当してたから経験にはなりましたね。

畔見●2人で50人? すごい(笑)。

廿:じかに入力者と顔を合わせて仕事をする経験ってすごく大事。それを経験しなかった人が、データ入力でグループリーダーになるのって、結構難しいと思うんですよ。

畔見●相当ストレスたまりますからね、人への対応っていうのは。

廿:そうですよね。それといつも思うのが、入力をしてくれる人に、「経験がない」とか「応用力がない」って文句を言っても、その経験を積んでもらう場所っていうのが…。

畔見●うん、なくなっちゃってる。

廿:直接顔を合わせて指導を受けるとか、同じ職場でほかの人はこんなにできるんだと見ることができる、そういう場所が今なかなかない。難しいですよね。

畔見さんが勤めていた会社の厳しーい評価システムを聞いたんだけど、そのときICレコーダーのスイッチを入れてなかった…。入力のプロとしてやっていくためには、本当はこういう環境で鍛えられなきゃだめなんだと、実感するようなシステムでした。
畔見さん、あらためてちょっと書いてもらえますか。

はい、畔見です。
会社時代はもう全て能力でした。高卒で基本給が8万であとは能力給。だから毎日キチンとパンチ数・ミス個数を管理されていたんです。毎日、統計が出てくる。それには一日の総合計と、業務ごとに分けられた管理表がオフィスコンピュータ(オフコン)管理されていて出てきます。速く入力しても、ミスが多いとそれは能力としては劣ると判断されてしまうわけなんです。
ミスタッチせずにスピードも速い…それが能力給をあげる全て。毎日統計されたそれらの管理表は1ヶ月ごとにも出され、ボーナスや昇級の時の査定にひびきます。かなり怖いです。
ミスを気にするとスピードは落ちますから。それじゃあどうするか…というと、運指…指の運びをキチンと正確に把握することしかないんです。指がキーボードを正確に速くとらえれば能力も、ミス個数も超越できる…そんな世界でした。

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会社員から自営業へ

廿:結婚後、家で始められたのはいつですか?

畔見●会社ではオフコンを使ってたから、パソコンのパの字も知らなかったんです。MOTを取ってインストラクターになろうと思って、95年ぐらいかな、1年かけて取ったんです。でも、取れたころにはもうMOTを取った人が大勢いて、仕事につながらなくて。どうしようかと思ってたら、一緒に試験受けた人が在宅でデータ処理をしてた人で、「教えるから」って仕事を紹介してくれたんです。それと、そのころはニフティのパソコン通信が全盛期で…。

廿:ってことは、在宅ワーキングフォーラムが全盛期!

畔見●そう。フォーラムで、仕事やりますってPRを出しておいたら、最初のクライアントがついた。大手の会社の人でたくさん仕事を出してくれました。

廿:上々の滑り出しだったんですね。

畔見●あそこで縁が縁を呼んで、評判で横つながりで、紹介があって、どんどん仕事が増えていって。一緒に仕事をする人にも出会えたし、在宅ワーキングフォーラムさまさまです。

廿:あそこで実績を上げた人が、ちゃんと1人いたか…(笑)。当時の私は、入力会社に勤める前だったからド素人。PRの文章にも、そのド素人感が出ちゃうんですよ。

畔見●そういうものですか??

廿:そうだと思う。あのころまだ、簡単な入力の仕事がいっぱいあったでしょう。もちろんしょっちゅう応募するんですよ。でも一回も採用されたことなかった。ちょうど在宅ワークブームだったから、私みたいな未経験の主婦が大勢、入力を志望してた時代ですよね。

畔見●私もその一人です。

廿:いや、その前の経験が全然違うから。

畔見●でも自営ってなるとまた別じゃないですか。どうアピールしていいかわからない。最初のクライアントのときは直接電話がかってきてもうドギマギ、1文字1.2円で入力って考えてたのに、いくらですかって聞かれたとき「い、1円です」って、0.2円弱気になっちゃった(笑)。でも、つい去年までずっと継続して仕事を出してくれてました。

廿:えー? あのころ、0.45希望って書いてたんだけど、誰も出してくれなかった。

畔見●安すぎたんですよ。

廿:そんなことはないですよ。「もっと安い人がいたので今回はお断りします」って書いてあったもん。

つまり、問題はそこだ。アピールに「ド素人感」が出てしまうと買いたたかれる。もっと安い人がいるならそっちに出すのは当然だ。
経験なしに「プロフェッショナル感」を出すのは無理で、プロフェッショナル感を出すにはそれ以前の徹底した経験と、それに基づく実力が必要。いわゆる「主婦の在宅ワーク」には、この認識が欠けている。「PRにどんな文章を書くか」という小手先の技巧ではない。
当時の私はそのことに気づいていなかった。入力は好きだし、仕事はたくさんあるというから大丈夫だろうと、のんきに思っていた。1995年時点ですでに「会社員と自営の違い」という意識に到達していた畔見さんとの差は大きい。

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遊べない、寝られない

廿:人に頼むようになったのはいつですか?

畔見●いつだろう。そのあと入力グループに所属してたんだけど、その代表がいきなりやめちゃった。「やれない」って。いろいろごたごたがあって。

廿:グループワークは必ずごたごたする(笑)。

畔見●そう。それで、サブリーダーをしてた人と私が、「じゃあ2人でオフィスをやろうか」って新しく始めて、そのときから人に出すようになった。8年ぐらい前ですね。途中で有限会社にしたんだけど、去年その会社を解散して1人で再出発。
そうやって形が変わっていく間にも、最初のグループで一緒だった人たちにずっと仕事してもらってたんだけど、その長い人が2人、この間やめちゃったんですよ。

廿:パートに出ちゃったって感じ?

畔見●そうなんです。1人やめ翌月また1人やめ、ってときは、その月ごとに涙にくれながら、「どうしよう、仕事…。もう私もやめちゃおうかなあ」、そう思ってたら、クライアントが察したのか続々と仕事を出してくれる。…やめられない。

廿:察してるんですよ(笑)。だけど、やめるのも難しいですよね。

畔見●体力的な問題とか親の問題も出てくるだろうから、いつまでできるかわからないんだけど、依頼されればやりたいと思う。「あなたの所はいらないよ」って言われるまでやるんだろうなあ。

廿:結局はそうなるんだなあ。

畔見●去年は1人で新オフィスを始めた最初の年だったんですけど、細木数子さんの本に「4月は仕事がなくなるでしょう」って書いてあって、半ば楽しみにしてたのに(笑)、全然。

廿:増える一方。

畔見●遊べない、寝られない。でも今は、やめる人がやめて新しい人が入ってきて、それなりに落ち着いたから新規開拓しようかなあと。でも新規開拓したあとで、またメンバーがやめたらどうしようって不安もありますよね。

廿:それは本当に怖い。私もあるクライアントに、今年は発注量が増えるって予告されてて、お願いする人増やさなきゃだめかなと思って。

畔見●メンバーを増やしてしまうより、横つながりを持ったほうが臨機応変でいいのかなと思うこともあるんですよ。でも、「信頼できる!」ってグループはもう仕事があふれてるからだめなんですよね。

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メンバーは不満も持っているがテキトーでもある

廿:私がテープ起こしをお願いしてる人の1人が、テープ起こしの会社にも登録していて、かなり長くそこで仕事してるんですよ。その彼女がもらってる現在の単価が、音声1時間で×円なんですって。

畔見●えええーっ。それは安すぎる。

廿:たぶんその会社の論理としては、「慣れない人は1週間で1時間しか起こせない、彼女は週4時間起こせる、だから1カ月の収入は不慣れな人の4倍、だからOK!」っていうイメージなんでしょうね。その人の評価って意味では、そんなに単純な掛け算でいいのか、単価自体上げてあげたらと思うんだけど。

この方はすごーく素晴らしい仕事をしてくださるので、私がお支払いしてる単価はその会社の1.5倍ぐらい。

畔見●ちょっとでも単価を上げてくれるとか、そういう形で評価をもらうとうれしいですからね。
でも、どういう基準でメンバーさんが仕事を引き受けるのか、わからない部分がある。本当に単価で選んでるのかなあ。そこそこ市場価格よりいい単価で出してるのに「やりませーん」と言われちゃうと、「えっ、在宅の仕事希望してるんじゃないの?」と思うんですよ。何の条件が合わないんだろう。

廿:何の条件が合わないんでしょうね、それって。

畔見●有限会社をやってたときも、「仕事をしたい、在宅でデータ入力をしたい」って登録に来る人、面接までして本人が納得して登録しているはずなのに、仕事の情報を流すと全然応募がないときが…。

廿:それ、よく聞きます。本当にやる気があって登録してるのかって感じですよね。リーダーにいくらやる気があっても、誰も応募してくれないと結局仕事はできないし。
私は入力講座をやってたせいで、人から相談を受けることが多かったんだけど、私が知ってるだけでもいくつかのグループが空中分解してます。両方で不信感なんですよね。メンバーは何かリーダーに不信感があるんですよ。それとも、何か夢のようなことを考えてるのかな。単価的には不満はないはずの仕事でも…。あとは何をしてほしいのか。

畔見●あとは何を、そこがわからないと、歩み寄れないんですよね…。

廿:仕事が土日にかからないでほしい、とかかな。

畔見●そういう面か…。あんまり厳しいことを言わないでほしいとかなのかな。

対談時には「メンバーの、リーダーに対する不満や不信感」について2人で頭を悩ませていたけど、応募がないという現象には違う原因もあることにあとで気づいた。

「本当にやる気があって登録してるのか」なんて言っている当の私も、何年も前に登録して一度も仕事情報に応募したことない会社がある。
直請けのお客さんが増えて応募の必要がなくなったのに、「登録を解除しますか?」と聞かれないのでそのままにしているのだ。「登録者○名!」という数字をPRに使うから多いほうがいいのか、一人一人に意向を確かめてデータを削除したりする手間をかけてはいられないということなのか。
別の会社は、打診された仕事を何回か続けて断ったらあらためて意向を確認するメールが来た。お詫びして登録の解除を依頼したら、「とりあえず解除したけど、また都合がついたらいつでも言ってください」という内容の丁重なメールが来て恐縮した。

基本的には、「ちっとも手を挙げない登録者」に対しては、いつまでも名簿に載せておかず意向を確認して整理するのがいいだろうと思う。登録する側というのは私自身も含め結構テキトーで、あっちこっちに登録してたまたまタイミングの合う仕事をしているような面が確かにあるから。

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